松沢呉一のビバノン・ライフ

もしダイヤモンド・プリンセス号から逃げ出していたら—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[4]-(松沢呉一)

アンスラックス(炭疽菌)が生物兵器に向いているのに対してコロナウイルスは向いていない—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[3]」の続きです。

 

 

 

チフスのメアリーはなぜ逮捕されなかったのか

 

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チフスのメアリー」のことを考えていて、疑問に思ったことがあります。

自身が人に腸チフスを感染させることがわかりながらメアリー・マローンが料理人として働いたのであれば、傷害罪になり得るでしょう。死者も出ているので殺人罪が成立するかもしれない。日本を含めてたいていの国でもそうですし、おそらく当時もそうです(確証はない)。故意に感染させたわけではなくても、感染させるであろうことは予見できますから、未必の故意になるだろうと思います。

最初に隔離された時は、はっきりと自分が感染源だとわかっていなかったとしても、その時に説明を受けていますから、身を隠した段階ではもうわかっていたわけで、二度目の隔離は刑務所でもよかったはずです。

ただし、この場合、誰が感染させたかがわかりにくくはあります。チフス菌が原因であることはこの頃にはわかっていても、今のように病原菌のDNAを調べることで加害・被害を決定することはできない。それができないと傷害罪は成立しません。それでも、状況から考えて、メアリー・マローンが感染源であると見なすことはできたのではなかろうか。

しかし、警察署も裁判所も刑務所も困り果てたでしょう。警察内、裁判所内、刑務所内でチフスが蔓延するかもしれない。結局隔離施設のある病院に入れるしかない、また、殺人ですから、死刑あるいは終身刑だった可能性もありますけど、そうならなかったら、いずれシャバに出てきてしまいます。

だったら、最初から専門の隔離施設に入れた方がいいという判断だったと推測します。

刑務所よりは警備がゆるい施設だったでしょうから、逃亡も可能だったかもしれず、逃亡した場合、それによってまた感染させたら罪に問われるでしょうけど、逃亡そのものは罪になるんだろうか。

というのが疑問点。

結論を言うと、「答えはわからない」です。その時代の米国の法律を調べるのは大変すぎます。

では、次の疑問です。

ダイヤモンド・プリンセス号のサイトより

 

 

もしダイヤモンド・ブリンセス号から逃亡したら

 

vivanon_sentenceダイヤモンド・プリンセス号に乗るのは金持ちばかりかと思ったら、10万円もしないコースからあるとわかって、俄然「もし私がダイヤモンド・プリンセス号に乗船していたら」という想像がリアルになってます。

旅行代理店単位で企画が組まれていて、内容と料金は代理店によって違い、下に出したのはHISのコースの一部です。

 

 

 

5月から再開予定で、現在申し込む人はほとんどいないでしょうけど、告知は十分なされているので、落ち着いたら申込みが殺到しそう。船の旅は退屈するので苦手なのですけど、6日だったら耐えられそうです。我慢してまで乗ることはないですけど、何かの拍子で今回のツアーに参加していて、感染していなかったら、外に出られない状況の中で私は逃亡を企てたかもしれない。

パソコンがあれば国会図書館の本を読んで暇を潰しつつ、「ビバノン」を更新するのに忙しく、今とあんまり変わらない生活です。料金はかからず、メシも出るのですから、その点ではそう悪くはない。

しかし、船は無理。6日の船旅まではいいとして、それ以上船の中にいるのは耐えられない。どうせ私が乗るとしたら海の見えない安い部屋ですから刑務所と変わらない。

しかも、船内での感染対策がなされておらず、このままでは感染すると思ったら逃亡していいのではなかろうか(以下、国内ツアーだった場合とします)。感染することは諦めがつくとして、船会社なり行政なりのミスだったら腹立たしい。生ホタテの寿司も食いたいし。寿司だったらなんだっていいのですが、私はホタテが好きです。

実際に不備があったのかどうか私には判断できないですが、あれだけの感染者が出ているのですから、ミスがあった可能性は否定できない。

船外への経路が限られるため、船からの逃亡は難しそうですが、うまいこと楽器ケースの中に入って脱出したとして、これ自体で罪に問われるのかどうか。

 

 

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