松沢呉一のビバノン・ライフ

経済が停滞することで感染症で亡くなる人が増える可能性—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[7]-(松沢呉一)

コロナウイルスを利用する人たちと巻き込まれていく人たち—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[6]」の続きです。

 

 

 

コレラは今も万単位の死亡者を出している

 

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感染症はどうしたって人の中にある差別意識を浮上させますわね。それに憤る人たちも、ふだんは見ないようにすることで、自身の中にある差別意識を直視しないで済んでいたりします。

今回はそんな話です。最初に言っておきますが、前半は事実の確認。後半はあくまで可能性があるってことに過ぎませんけど、気にしておいていいかと思います。

ベルツ著『内科病論』にはコレラについて「貧人は富人に比すれば之に罹ること多し」と書かれています。

コレラが大流行した江戸時代から明治時代の日本では、長家の住民たちは共同の洗い場で食器や野菜を洗い、その水はどぶ川に流れ、共同の汲取便所を使い、狭い空間に密集した家に住んでましたし、栄養も行き届かず、病院にも気楽には行けなかったのですから、当然感染リスクが高かったでしょう。

また、女工のように狭い場所で共同生活をしながら働く者たちが感染しやすく、栄養状態の悪い者が重症化し、治療が受けられない貧しい者から先に死んでいきました。

しばしば感染症は不平等です。下層の人々が罹りやすく、重症化しやすく、死にやすい。女工にはコレラだけでなく、結核に罹るのが多かったことは細井和喜蔵が記述していた通りです。その細井和喜蔵も結核でした。

一国内でも今なおこの傾向はあるでしょうが、同じことが現在は国家間で起きています。

今もコレラは適切な処置をしないと、致死率は高いのですが、先進国での死亡者はほとんどいなくなっています。衛生環境の向上と、治療が可能なためです。

WHOが把握している患者数は年間10万人台で、2016年の死亡者は2,420名です。WHOのこのページはこれ以降更新されていないですが、この翌年、イエメンで80万人以上が感染し、2千人以上が死亡しています。致死率が低いのは国際的な支援があったためで、未治療だとこの数十倍が死にます。ここ、大事です。

例年の致死率は2パーセント台ですから、たいしたことがないようにも思えますが、あくまで届出られた数字であって、発生数の多い国では、病院にかからずに治癒している人たち、あるいは亡くなっている人たちが多いため、ただでさえ正確な数字の把握が難しい上に、政府も意図的に数字を低くしているケースがあって、実際には死亡者は毎年2万人以上というのがもっとも少ない見積もりで、10万人以上という説もあります。コレラの場合は乳幼児が亡くなる率が高いので、このうちの何割かは子どもです。

「コレラでこれだけ死んでいるのだから、新型肺炎で少しくらい死んでもたいしたことはない」と言いたいのではありません。

国立感染症研究所のサイトより、痙攣する重症コレラ患者

 

 

マラリアによる死者は1年で40万人以上、HIVの死者は70万人以上

 

vivanon_sentenceコレラ以上に人を殺しているのがマラリアです。治療法があるにもかかわらず、2018年に40万人以上亡くなっていて(2019年の数字はまだ出ていないよう。以下同)、とくにサハラ砂漠以南のアフリカ諸国に集中しており、この数字も正確に現状を反映していないかもしれない。

サハラ砂漠以南はHIVの死亡者が集中するエリアでもあります。先進国ではHIVでは死ななくなりつつありますが、2018年に世界では77万人が亡くなっています。うち48万人近くがアフリカです。死亡者はピーク時に比べれば減少してますが、減少ペースが鈍くなってきています。対策費が足りないためです。日本国内でもそうですが、先進国では死なない病気になるとともに予算が減らされ、寄付金が集まりにくくなっています。

死なない病気になって、HIVのことより、自分の快不快が大事なサイテーの人々が増えていることは「おっぱい募金」に反対した人々を見れば一目瞭然。

 

 

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