松沢呉一のビバノン・ライフ

インジェラとエチオピアン・ポップス—エチオピアについて知りたかったこと[1]-(松沢呉一)

エチオピア料理を食べながら猫町倶楽部について語った夜—猫町倶楽部初体験(5)」の続きみたいなもんですが、ここからは猫町倶楽部は関係ありません。

 

 

どうしてもわからないこと

 

vivanon_sentence銭湯に行った際に「リトル・エチオピア」を見かけて、どうしても入りたいと思ったのは理由があります。エチオピアの音楽が好きってことももちろんあるのですが、それにからめて聞きたいことがあったのです。

以前から気になっていたのですが、ネットで検索してもわからず、早稲田にあったエチオピア料理店もなくなってしまって、聞ける場所がない。エチオピア人じゃなくても、エチオピアに詳しくて言葉まで理解できる日本人の知り合いがいればいいのですが、あいにくそんな知人はいない。

以前も書いたように、自分で調べるために、エチオピアで使用されているゲエズ文字を覚えようともしたのですが、難しくて挫折しました。文字が読めるようになっても、言葉が理解できるようになるわけではないですが、まずは読めないと話にならない。

ロシアやブルガリアで使用されているキリル文字は、ローマ文字と同じくギリシャ文字がルーツのため、発音は違っても、共通の文字や類似した文字があるので覚えられたのですが、ゲエズ文字はとっかかりが何もなく、平仮名や片仮名同様、一音一文字のため、覚えなければならない文字数が多いのです。ハングル同様、母音と子音の組み合わせに法則性があるので、一度法則を覚えてしまえば平仮名、片仮名よりも簡単ではありますけど、そうしなければならない切羽詰まった事情があるわけでもないので、根気が続きませんでした。

あとはエチオピア人との出会いを待つしかないと思い続けていたところで、「リトル・エチオピア」と出くわしたというわけです。

※ゲエズ文字は「リトル・エチオピア」のロゴの真ん中に書かれている文字。

 

 

私は音楽が好きじゃない

 

vivanon_sentenceリトル・エチオピア」が、エチオピアに短期間滞在しただけの日本人の経営だと期待はできなかったのですが、エチオピア人夫婦だったので、答えを教えてもらえそうです。

しかし、いきなりできる質問ではないし、店に入った時はママが一人で切り盛りしていて、料理を出すまでは厨房に引っ込んでいたため、筑摩書房の松本良次さんにエチオピアの解説をして、その時を待ちました。

料理が運ばれてきた時に私はこう切り出しました。

「エチオピアの音楽が好きなんですよ」

彼女はきっぱりこう言いました。

「私は音楽が好きじゃない」

えっ? 私の唖然とした表情に気づいたのか、すぐにこう続けました。

「エチオピアの音楽だけじゃなく、日本の音楽も好きじゃない」

このあとさらに説明があったのですが、「そんなには好きじゃない」という意味でした。音楽について聞いてくるのがいるので、それを防ぐための言葉だったのかもしれませんが、日本でも、コンサートには行かず、金を出してまで音を聴くようなことはない人たちはたくさんいて、そういう人ってことです。

私はてっきりエチオピア人は全員揃って音楽が好きだと思ってました。偏見です。

※これがインジェラ。広げても粗いタオル地のおしぼりみたいです。原料にするテフという穀物は日本にも輸入されているのですが、輸入品はバカ高いので、「リトル・エチオピア」ではエチオピアに帰る人、行く人に頼んで買ってきてもらっているとこのとです。三日間かけて発酵させていて、見た目からは想像しにくいですが、これも酸っぱい。それでも米粉を混ぜるなどして、日本人向けに酸味を抑えているそうです。おいしくいただきましたが、けっこう腹に溜まります。料理に敷いてあったインジェラも全部食ったので、インジェラを追加サービスしてくれようとしたのに、もう食えませんでした。

 

 

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