松沢呉一のビバノン・ライフ

子宝に恵まれる温泉の効用は乱交によるものだった—ベルツ花子の見た日本とドイツ[4]-(松沢呉一)

赤門前の大陰嚢とフィラリア—ベルツ花子の見た日本とドイツ[3]」の続きです。

注:今もくらやみ祭りの名称で行なわれている祭りがありますが、以下に出てくる闇祭(くらやみまつり)は明治時代に禁止されており、同名の他の祭りで乱交が行なわれている、あるいは行なわれていたとは言えません。行なわれていない、あるいは行なわれていなかったとも断言できないですが。また、子宝に恵まれる温泉地のどこでも乱交が行なわれていたわけでもありません。行なわれていなかったとも断言できないですが。

 

 

ベルツが残した功績さまざま

 

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ベルツ花子著『欧洲大戦当時の独逸』は下ネタばっかりの本だと誤解しないでいただきたいので、ベルツが残した功績にも触れておきます。

今まで知らなかったのですが、今もベルツ水として販売されているグリセリンカリ液という保湿薬があります。あかぎれやひびわれに効くそうです(以下の商品ではグリセリンカリ液の下にベルツ水とあります)。ベルツの発明品というわけではなく、箱根に別荘を持っていた時に箱根の女中さんにこれを処方したところから、ベルツ水となったらしい。

ベルツは温泉が好きで、温泉の医学的効能も説いてました。とくに群馬の二大温泉、草津温泉と伊香保温泉がお気に入りで、箱根の前に別荘を持っていたのが伊香保温泉です。

伊香保温泉の別荘を普段は使わないため、人に貸していたら、雨が続いて洗濯ものを外に干せず、家の中に釘をいっぱい打たれてしまったので気分を害してベルツは手放してしまいますが、ベルツに限らず、当時日本にいた外国人たちはとくに伊香保温泉が好きだったそうです。ロバート・F・ブルームが描いた温泉地もおそらく伊香保です。

ベルツが伊香保を気に入ったのは温泉だけでなく、山登りに適しているからでもありました。ドイツ人は山登りが好きですから。

しかし、日本人は富士山などの霊山以外に登る習慣がなかったため、日本人を連れていっても、疲れるだけで何が楽しいのかわからず、一回で懲りてしまいます。山ばかり行っているので、「日本に探偵に来て居るなどと言はれます」と日本人の知人に注意されています。そんなことをするのはスパイに決まってます。

 

 

伊香保温泉で子宝に恵まれる理由

 

vivanon_sentenceこの伊香保にまつわる風習で、明治時代らしい話が出ています。

東京帝国大学大医学部で教鞭をとる傍ら、民俗学、人類学の研究のため、ベルツはしばしば旅をしていて、イザベラ・バード同様、新潟や東北地方にも行っています。

越後を旅した時のこと。ある農家で子どもの診療を頼まれます。その子は5、6歳で、どこが悪かったのかは書かれていないのですが、ベルツはその子の見た目に驚きます。肌が白くて、眼が青いのです。人類学に造詣の深いベルツも、混血以外に、日本でこのような例があることは聞いたことがなく、実子かどうかを聞いたのですが、あくまで実子だと言います。

ベルツは人類学上、貴重な例だと思い、その子のことを気にしていたのですが、いくら調べてもそんな例は他になく、合点がいかない。

しかし、その真相がやがて明らかになります。

 

 

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