松沢呉一のビバノン・ライフ

レゲエのホモフォビアはエチオピアがルーツか?—エチオピアについて知りたかったこと[3]-(松沢呉一)

ジャノ・バンド(Jano Band)来日の噂—エチオピアについて知りたかったこと[2]」の続きです。

 

 

レゲエとラスタファリとエチオピア

 

vivanon_sentenceそろそろ本題に入るか。

私はマスターにこう切り出しました。

「エチオピアでもレゲエは盛んですよね」

「みんなレゲエは好きですよ。エチオピアのことを讃えてくれるからね」

これはレゲエの背景にあるラスタファリに基づきます。ラスチファリは思想であり、宗教であり、運動であり、1930年代以降、ジャマイカの労働者階級に広がったものです。

運動としてはアフリカ回帰運動のひとつであり、宗教としてはキリスト教を土台にしつつ、イギリスに支配されたジャマイカをバビロンとし、エチオピアをザイオン(神の国)とし、エチオピア帝国最後の皇帝ハイレ・セラシエ1世を神と崇めます。

それを支持するラスタファリアンのルーツがエチオピアというわけではなくて、聖書のフレーズがエチオピア=ザイオンの根拠となっています。エチオピアはムッソリーニのイタリアに支配された時期がありながらも、それを打ち破った経緯から、アフリカ大陸で植民地支配を逃れたという点によっても、バビロンの対比としてザイオンの地位を獲得。

ドレッドヘアだのガンジャ(マリファナ)だの菜食主義だのは、ラスタファリが弾圧された時に逃げた人々がコミューンを形成する中で作られた規範であり、エチオピアとは無関係なのですが、ラスタファリの特徴として、強い同性愛否定があります。この根拠は聖書です。

このラスタファリズムを背景にしているのがレゲエで、ボブ・マーリーという突出したスターがここから輩出されたために、レゲエ=ラスタファリの音楽と認識されていますが、レゲエがラスタファリの中から生まれ、その宣伝役になったのは事実として、ラスタファリの公式音楽というわけではなく、その見方を嫌がる人々もいるようです。それでも、ラスタファリ思想に裏打ちされていますから、レゲエでも同性愛否定は強い。

なお、アフリカ回帰運動としてのラスタファリを実践して、エチオピアに移住したラスタファリアンたちは居住地を与えられています。エチオピアではマリファナは禁止されていますが、ラスタファリアン居住地では黙認されているそうです。エチオピア人でマリファナをしたい人はそこに行けばいいのですが、「実際にそうする人はあまりいない」とのことで、気楽に行ける場所ではないようです。

Haile Selassie I single 1942年発行の切手 スミソニアン博物館附属の国立郵便博物館(National Postal Museum)より

 

 

レゲエのホモフォビアはエチオピアから?

 

vivanon_sentenceレゲエのホモフォビアが時々問題になります。

 

 

 

もう10年前なのか。

文化的背景を知らないまま、その表現を否定すべきではないのなら、文化的背景を知らないまま表現を肯定すべきでもなくて、よく知らない国のことは触れないことが正しいことになってしまいます。触れないこともひとつの賢明な選択だとして、「肯定するのはいいが、否定してはいけない」なんてバカな話はない。

ナチスのジェノサイドだってポグロムの歴史的背景があり、ユダヤ人が金融や流通、メディアを牛耳っていた事実もあり、第一次世界大戦による困窮やインフレ、共産主義の脅威といった背景があったのですから、背景のあるジェノサイドは批判しないってことにもなります。くだらねえ。

背景や事情を知ることは大事です。その背景を知ることで、ホモフォビアを肯定できるというなら、その立場からホモフォビア批判に対抗すればいいだけのことで、それができないのであれば批判に甘んじるしかないだろうと思います。

といった議論は見ていたのですが、その後、エチオピアの音楽を聴くようになって、エチオピアでもレゲエは盛んなわけですよ。移住組だけでなく。

「あれ? もしかすっと、ラスタファリのホモフォビアはエチオピア由来なのでは?」「だとすると、エチオピアのレゲエでもホモフォビアを歌っているのでは?」との疑問が生じました。

エチオピアはキリスト教が強い。国民の63%がクリスチャンで、34%がムスリム。このふたつを合わせて97%です。エチオピアのキリスト教は、ヨーロッパ由来のカトリック、プロテスタントとは違って、エチオピア正教と言われるもので、独自発展したものです。

エチオピアでは同性愛は否定されていて、それがジャマイカのキリスト教を土台にしたラスタファリにも影響を与えたと思われるのです。

※「リトル・エチオピア」店内

 

 

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