騒動が終わって考えるトイレットペーパー—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[8]-(松沢呉一)
「納豆とヨーグルトと『マゾヒストたち』の買い占めは許容範囲—ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界[7]」の続きですけど、テーマとしては「新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情」シリーズですので、こちらに入れておきます。
ニューヨークではマスクより手袋
まずは「マスク率は高いのに対して、なぜゴーグルや手袋をする人は少ないのか—ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界[2]」の補足をしておきます。
以下の記事をお読み下さい。
2020年3月16日付「FNN PRIME」より
私だったら50人なり100人なりを路上や電車内でカウントして「マスク率」「手袋率」「マスク・手袋併用率」「ノーガード率」を出すところです。それがないと日本との比較ができず、「多い」と言ってもさっぱり程度がわからない。という点でイライラする記事ですが、マスクよりも手袋の方が重視されているという内容です。布や皮のものではなく、使い捨てです。
日本ではマスク万能幻想にとらわれやすいのと同じく、あちらはあちらで文化的バイアスがかかるので、これが正しい選択とは一概には言えず、「なんもしたくない派」の私としてはこれを推奨したり、礼讃したりするつもりはありません。ただ、日本のバイアスを照らすものとしては格好の記事です。
手袋は、本をめくる、スマホを操作するといった作業にとっては邪魔なので、「片方だけ手袋」ってことですね。これなら鼻糞もほじれますし、床に落ちたピーナッツをスムーズに拾って食べることもできます。
マスクが万全だと信じていると死にますよ。と言いながら、手袋をしておらず、マスクもしないくせに、「マスク・セックスっていいかも」と妄想していて、「クンニができないのでマスクに切れ目を入れなきゃ」「マスク・セックスする時くらいは手洗いはしなきゃ」と思っている私も死にますね。
そのニューヨークでもトイレットペーパーやティッシュペーパー、消毒用アルコール、冷凍食品、缶詰、スパゲティなども品切れ状態に。この調子だと納豆も売り切れだな。
なお、米国では急速に入院患者が増え、院内感染を防ぐための防御が徹底し始めているため、医療現場で早くも手袋不足が起きているようです。この不足は一般の人たちが買い漁ることも背景にありそうです。
パニック増幅の仕組み
日本ではすでに店頭にトイレットヘーパーが並んで落ち着き出しているので、改めて今回のトイレットペーパー騒動が提示した「パニック時の情報の扱い」について確認しておきます。
今回の騒動は
「不足するかも」という情報によって買い占めに走った人たちがいた段階では、全国的に欠乏状態が生じるほどではなかったのに、「デマだ」という指摘が情報を増幅して、全国津々浦々にまで浸透させ、それによって現に品不足になって並ぶしかなくなった人たち、不安によってすでにあるのに並んだ人たちがいて、品不足が長期にわたって維持された。
という現象です。
以下の分析ではメディアがこれに加担したのだという主張。
2020年3月12日付「IT media」より
最近、SNSを丁寧に追っていないためもあって、私自身、トイレットペーパー不足が起きたのを知ったのは、「デマを流したのはこいつだ」と吊るし上げる投稿でした。吊るし上げは元の投稿よりも数倍の規模で拡散されたであろうことがわかります。それをマスメディアが取り上げて、さらに増幅させました。
SNSで「デマだ」と指摘した人たちも、それを取り上げたメディアもすべてトイレットペーパー不足に加担しました。
ここまでは事実として、この記事のように、そのことを知らしめることで沈静化を狙う記事であっても、同じくトイレットペーパーが足りないことを知らしめる結果をもたらす可能性があります。
デマに対して、「それはデマだ」という指摘は意図が違い、後者は鎮静を狙う情報だが、情報の拡散という意味で等価値。
ということになりますが、
そう指摘することは、さらにメタな関係にあって、どちらとも意味合いは違いながら、情報の拡散という意味で等価値。
という関係になります。「IT media」もここから逃れられていない。と書いている私もまた等価値。
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