松沢呉一のビバノン・ライフ

どうすればパニック買いを防げるのか—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[14]-(松沢呉一)

オーストラリアと米国では買い過ぎる人たちが続出—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[13]」の続きです。

 

 

 

トイレットペーパーは金と同じ

 

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起きにくいはずのオーストラリアや米国でなぜトイレットペーパーの買い占めが起きたのかについて、オーストラリアや米国の記事にも目を通しましたが、起きなかった国と比較して論じているものがなく、この疑問について納得できる答えは見出せませんでした。

私も根拠をはっきり示せないので、「正確なことはわからない」としか言えないのですが、中国とそれ以外の国とを分けたのは、皮肉なことに中国の統制かもしれない。

危機感を煽るような情報が中国では抑制され、パニックにつながる情報が消されて、商品が店頭から消えたとの情報がそれ以外の国に比すとおとなしかったのではなかろうか。とくに政府系のメディアはそうでしょう。

また、先行した中国では、香港、台湾、シンガポール、日本でトイレットペーパー不足が報じられた頃にはすでに落ち着きを見せていたのに対して、オーストラリアや米国ではそれらの報道が引き金になったとも思えます。不安と恐怖が高まってきたところじゃないとパニック行動は起きない。

たった今パニックが起きているのはインドです。3月24日にインドのナレンドラ・モディ首相が21日間の外出禁止令を出していて、これによって食糧を備蓄しようとする人々が店に詰めかけています。

コレラの震源地ですから、私もインドには注目していたのですが、ここまで感染者数は少なくて、3月24日現在で324名。中国との関係からしても人口からしても少な過ぎるという指摘もなされていたくらいです。

それがいきなり外出禁止令ですから、パニックになる条件が整ってしまいました。

ここまでの流れと情報の内容は時系列に並べて整理する必要があります。それをやっても確定的なことはわからんかもしれないのですが、「不安」がこの件において重要な役割を果たしています。言うまでもないことですが。オーストラリアは感染者数・死亡者数のわりに、先手を打った厳しい対策をとったことが不安を増大させたのではないか(下の記事参照)。

また、中国人たちが買い漁ったのがきっかけになって店頭から消えてオーストラリア人たちも追ったのかもしれないですが、中国人が真っ先に買い占めた例は、今のところ一例しか見ていないので、ペンディングとします。

微妙な条件の差で買い占めが起きたり起きなかったりするのですが、その条件次第で、いつでもどこでも起きるものと思っていた方がよさそうです。

※2020年2月28日付「人民網」より、日本でトイレットペーパーが消えたことを早い段階で報じていてます。これは日本にいる中国人向けの記事だと思われます。この時点ではすでに中国での不安や恐怖が高まる時期を過ぎています。

 

 

この先は研究者に任せたい

 

vivanon_sentence腐らない、劣化しないという点で、トイレットペーパーは金と同じだと考えるとわかりやすい。

今回のようなことがあると、日銭で食べていて、貯金がない人は焦ります。20万円貯金があれば今月はなんとかなる。50万円あれば来月もなんとかなる。しかし、2ヶ月やそこらで元通りになる保証はなく、何年も続くかもしれないのですから、あればあっただけいい。インフレになったりすれば金の価値が落ちますけど、だからこそ、たくさんあった方がいい。

人間の不安と欲望は際限がないのです。だから金に執着する人が多いのだし、今回はそれがトイレットペーパーに表れました。

となると、中国でも、何らかのきっかけで買い占めが始まっていたら、加速度がついて連鎖した可能性もあります。売り場やバックヤードが広くても、それを超える需要があればいい。起きなかったのではなく、まだ起きていないだけかもしれない。

COVID~19は再流行が必ず起きると言われています。中国だって戒厳令さながらの管理体制をいつまでも続けるわけにはいかないですから、また寒くなる年末に流行すると、国外の情報が浸透しきっているので、トイレットペーパーの買い占めが起きるかもしれない。どこの国でも不安や恐怖が高まったところで起きて、「慣れの時期」「ゆるみの時期」に入ると収まるため、おそらく中国ではもう買い占め行動は起きないとは思いますが、この点は観察していたい。

 

 

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