松沢呉一のビバノン・ライフ

SM業界の冷え込みと希望—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[8]-(松沢呉一)

飲み屋や性風俗のその後—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[7]」の続きです。時制は直しましたが、この回も半月ほど前に書いてあったものです。

 

東日本大震災の時との大きな違い

 

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前回見たように、「同じ業種の同じロケーションであるなら」という条件であれば、客の信頼を得て来た店や個人は厳しさがゆるい。つまり、そんなには厳しくない。一見の観光客や出張客ばかりを相手にしてきたような店、本指名ではなく、フリーの客を中心に相手にしてきた個人は思い切り厳しい。

そうなるであろうことは読めていたのですが、「キャバクラやヘルスは危険なのか?—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[1]」に書いたことで大きく外れたことがあります。SMです。

あそこに書いたように、SMの世界では、全頭マスクをして四つん這いになってケツにディルドを入れられている限りは濃厚接触とは言い難いのですけど、SM業界はモロにダメージを受けています。

東日本大震災の時は、地面が揺れ、原発があんなことになってもSM業界はさほどダメージを受けませんでした。棚が倒れて備品が壊れたといった物理的被害は別にして。

とくにSM系の飲み屋はふだんよりも客が増えた店が多かったものです。常連客は「こんな時は行ってあげなきゃ」と思うってものです。また、客自身も不安なので、信頼できる人たちの顔を見て話して安心したい。

これは飲み屋一般に共通することで、ママやマスター、スタッフの人柄で客が集まっている小さな店には客が来て、チェーンの居酒屋には人が来ないという現象が広く見られましたが、とくにSM系の店ではこの傾向が強かったのです。さすが人間関係で成立しているSMならではです。

※渋谷・百軒店にあるフェティッシュバー「OCT」。下の写真も

 

 

SMの特殊事情

 

vivanon_sentenceしかし、今回はそれが見られないのです。SMプレイは感染しない工夫が可能とは言え、工夫しなければ感染リスクがあることはもちろんのこと、プレイをしないSM系の飲み屋でも厳しい。感染したら、問題がそこに留まらないためです。

感染者が出たら、「SMバーでクラスター感染」と報道されます。ただの「会社員(38)」ならわからないとして、「埼玉県内で開業する医師(47)」「東京港区の会社役員(56)」などと書かれてしまいますから、周辺の人たちは特定できてしまう。「56歳の会社役員は入院したうちのお父さんじゃないの?」と家族も気づきます。退院して家に帰ったら、家族は誰もいなくなっているかもしれない。

コンサートや演劇のように不特定多数の客が集まる場では、その場にいた人に知らしめる意味で報道する必要がありますが、客の連絡先が把握できているのであれば直接連絡すればいいのだから、報道する意味はない。SM業界はわりと客の連絡先を把握しているものです。しかし、保健所やメディアはそんな細かな配慮はしてくれない。

こうして、とくに肩書きに特性があり、社会的地位が高く、金ももっている客は出入りできなくなってます。

 

 

SM業界の変質が影響している

 

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SM業界が厳しいのはもうひとつ理由があります。

 

 

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