松沢呉一のビバノン・ライフ

ウイルスを広げているのはおもに中高年—健康な若い世代はほとんど死なない病気[7]-(松沢呉一)

オスカル・アロさんが語るベニート・アロさんのケース—健康な若い世代はほとんど死なない病気[6]」の続きです。

 

 

健康な若い世代が死ぬのはおそらく感染者10万人に1人か2人

 

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まずこの記事。

 

2020年4月12日付「毎日新聞/医療プレミア」より

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化リスクや死亡リスクは、高齢になるほど高まるとする研究結果を、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のNeil Ferguson氏らが「The Lancet Infectious Diseases」3月30日オンライン版に発表した。中国本土における4万4,000人以上の感染例のデータに基づくこの解析から、COVID-19症例の入院率は20歳代では約1%だが、50歳代では8.2%となり、80歳以上では18.4%に達することが示された。また、同症例の致死率は、20歳代の0.03%に対して80歳以上では7.8%と推定されたという。

 

論文はこちらで読めます(英文)。

前から致死率は1パーセントを切ると言われていて、その通りになったわけですが、症状が軽いパートが数値に反映されていなかったので、若いほど致死率が下がって、20代は0.03パーセントですってよ。ゼロが増え過ぎて、どのくらいの数なのかもはや実感がないですが、感染者1万人について死亡者は3人です。

これは基礎疾患の有無を問わずですので、基礎疾患のない健康体であれば、さらに一桁落ちます。20代以下の健康体は、数字上、感染者が1万人出ても1人も死なないのです。

バタバタと若者が死んでいると「日経ビジネス」が伝えるジャージー・ショア大学メディカル・センターがいかに異常かわかりましょう。私は記事が異常なだけだと思いますが。

 

 

COVID-19は誰の病気か

 

vivanon_sentence「COVID-19は誰の病気か」を巡っての表現にはいくらかの揺れがあります。

当初、「年寄りと病人しか死なない病気だから、そんなに気にすることはない」という評価が出回って、それに対して医療関係から、「いやいや、若い世代でも感染している」という警告めいた指摘がなされます。

その頃、内部告発した中国の李文亮医師が死去します。享年34。

「どういうこと?」と思っていたのですが、データが出揃ってきて、「若い世代でも感染はするが、基礎疾患がなければ死ぬことはほとんどない」ということがはっきりしていきます。李文亮医師は極々稀な例で、おそらく過労や睡眠不足が関係しています。

各国のデータもそれを裏打ちしていきます。

ここから若い世代は、「自覚がなくて、年寄りの病気」としか思っておらず、なんら対策をとっていないのが多いことが指摘されだして、「無自覚な若い世代が老人に感染させている」という物語となっていき、テレビでは路上インタビューで半ば呆れて報じるようになっていきます。

前回見た「朝日新聞デジタル」の記事は、その流れに乗って、(感染させた上で)「人工呼吸器を老人から奪って殺している」とイメージさせるものです。記者にそういう意図はなかったのだとしても。

それに対して、「日経ビジネス」の記事は、「その若者たちもバタバタと死んでいる」というものであり、いわば教訓譚として歓迎されるタイプのものです。

結局、事実なんてどうでもよく、誰かのせいにして安心したいだけです。

※2020年2月8日付「東洋経済ON LINE」掲載の中国メディア「財新」の記事

 

 

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