松沢呉一のビバノン・ライフ

若者叩きの始まりは専門家会議の文書か?—健康な若い世代はほとんど死なない病気[10]-(松沢呉一)

メディアの低劣な若者叩きキャンペーンに要注意—健康な若い世代はほとんど死なない病気[9]」の続きです。

 

 

 

 若者バッシングのルーツを辿る

 

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40代までを入れて若い世代の感染者が多いかのように見せかけたり、あたかも若い世代に限定して無症候感染者が感染を拡大させているかのようなことを言うメディアはNHK「おはよう日本」だけではなく、どこからどうこの流れが出てきたのか気になります。

ざっと遡ってみました。

まだ十分に調べられていないですが、もしかすると、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が3月2日に出した「新型コロナウイルス感染症対策の見解」あたりが始まりかもしれない。始まりではないかもしれないですが、この姿勢が拡大され、誇張され、歪曲されていったのだろうと推測できます。

 

 

この一両日で明らかになったこと」の冒頭に以下が挙げられています。

 

(1)症状の軽い人からの感染拡大

これまでは症状の軽い人からも感染する可能性があると考えられていましたが、この一両日中に北海道などのデータの分析から明らかになってきたことは、症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっていると考えられることです。なかでも、若年層は重症化する割合が非常に低く、感染拡大の状況が見えないため、結果として多くの中高年層に感染が及んでいると考えられます。

 

※原文は太字に加えてアンダーラインがあって強調されている。

 

ちょっと文章のつながりが変ですが、そこは無視するとして、この文書はあくまで症状が出た人について語っています。「気づかないうちに」は、自身の症状に気づかないのではなく、感染させたことに気づかないということです。どの世代だって、多くの人は熱っぽくても、いつもの風邪だと思っていましょうから、新型コロナの症状だとは気づかず、感染させたことにはその場では気づかないという当たり前のことを言っているだけです。

そう理解はできるのですが、若年層に限定して、「結果として多くの中高年層に感染が及んでいる」という対立の図式を見せる必要があったのかどうかには大いに疑問があります。中高年も同様に、各世代に対しての感染を拡大しているわけですから。

この文書には以下の一文が最後についています。

 

6.全国の若者の皆さんへのお願い

10代、20代、30代の皆さん。
若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低いです。
でも、このウイルスの特徴のせいで、こうした症状の軽い人が、
重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性があります。
皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、
多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。

 

 

この頃は、北海道で感染者が急増していた時期で、2月25日に北海道での初の死亡者が出ています。

 

2020年2月26日付「朝日新聞デジタル」より

 

年齢は公表されていないですが、高齢者とのこと。あとの人たちは軽症だった模様です。高年齢であっても、大半の感染者は軽症で済みますから、すべての世代で同じことが言えるはずなのに、どうしてここで「若年層」「10代、20代、30代」に限定したのか。

 

 

軽卒な発言を諌めるための文書だったはずだが…

 

vivanon_sentenceウイルスを広げているのはおもに中高年—健康な若い世代はほとんど死なない病気[7]」に書いたように、「年寄りと病人しか死なない病気だから騒がなくていい」といったように軽く見る言説が広がったことに対して、「いやいや、そんなことはない」と否定する動きがあったことと同じ流れの指摘なのだと推測できます。

つまり、「若い世代でも、稀とは言え重症化し、死亡することもあるのと同時に、他者に感染させることがあるのだから、行動は慎むべし」ということであり、「若い世代のみが」ではなく、「若い世代も」関係のある病気だという意味です。

私も「年寄りと病人の病気しか死なない病気だから」という見方を否定する発言はいくつか見ていたので、これだけではなく、いくつかのソースから同様の指摘がなされたのだと思われます。

 

 

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