松沢呉一のビバノン・ライフ

スウェーデン方式を実現できるのはおそらくスウェーデンだけ—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[25]-(松沢呉一)

大恐慌時の自殺者数の増大と致死率の低下—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[24]」の続きです。

 

 

感染可能期間を発症の2日前までに拡大

 

vivanon_sentenceまずはこれまでの補足的な内容。

4月20日、国立感染症研究所・感染症疫学センターによる「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」に変更があった旨が公表されました

以下の部分。

 

本稿は、先の基本方針で示された患者クラスターの検出及び対応に関する情報に加えて、特に「濃厚接触者」に関わる「患者(確定例)」の感染可能期間の定義を次のとおり変更した。

・発熱及び咳・呼吸困難などの急性の呼吸器症状を含めた新型コロナウイルス感染症を疑う症状(以下参照)を呈した 2 日前から隔離開始までの間、とする。

*発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など

 

行きがかり上、潜伏期間の感染や無症候感染者による感染についてこだわっている私にとっては重要な変更。

3月までの中国同様、変更前は感染可能期間を発症後としていたのですが、発症の2日前までに拡大しています。

この変更は日本でもそのような例が出てきたことを受けたものか、なお国内で確認はされていないながら、発症前にも感染させるとの論文が出てきたことを受けたものなのかは不明。

それでも、潜伏期間のうち、発症前の2日にしていることから、発症前に感染させる可能性は限定的であり、それ以前に感染させることがあるとしても無視できる程度と判断しているであろうことがわかります。範囲を広げすぎると、クラスター追跡の作業が膨大になるため、技術的な判断かもしれないですが。

 

 

中国とスウェーデンの発想の違い

 

vivanon_sentence「検査しろ」派の理想郷である中国では、至る所で検温が実施されています。日本でもこれを追う動きが始まっていて、まだ任意の協力者にのみ実施ですが、中国では強制するも何も無条件に検温を実施。

 

2020年3月9日付「AFP BB NEWS

 

通行人を勝手に検温する技術と個人情報を組み合わせて、国民の健康までを国家が完全管理。「ウイルス撲滅」の一面的施策はここに行きつきます。その一面においては、これが人類の幸福です。しかし、健康という一面だけで人間は生きているのではないことは前回見た通り。また、このシリーズの初期にさんざん書いてきた通りであり、ここに感染症対策の難しさがあります。

これは1ヶ月以上前の記事で、その時点では潜伏期間は感染させないとされていたわけですが、無条件検温は引き続きおこなわれています。発症していないと簡単には調べようがないという事情があるにしても、発熱という発症が出た人たちを捕捉できれば感染拡大を防げると中国では判断されています。

発症したかどうかは自身でわかるのですから、精度の低い検査などに頼らず、公権力にも頼らず、個々人が判断して自主隔離をすればいいはずなのです。それができる国民であれば、です。

それが「ゆるゆる派」の理想であるスウェーデン方式です。

では、本題。

 

 

スウェーデンの国民が支持していることの意味

 

vivanon_sentenceスウェーデンで急速に重症者が増えて医療崩壊し、さらに死者が増え、他の病気の人たちまでが亡くなっていくようなことがあったら話は別として、少なくともスウェーデンの試みは、検討する価値があるように私には見えます。参考にできる知恵がここにはあって、熱にうかされている頭を冷やせます。

 

 

next_vivanon

(残り 2324文字/全文: 3822文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ