松沢呉一のビバノン・ライフ

日本はスウェーデンから学べるか?—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[26]-(松沢呉一)

スウェーデン方式を実現できるのはおそらくスウェーデンだけ—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[25]」の続きです。

 

 

悪夢と現実

 

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一昨日、まだ暗いうちに悪夢を見て目が覚めました。

スカイツリーの中でしばらくふらふらしていた人がいて、そのあと、近くのビルから飛び降り自殺したという報道を読んだ夢でした。報道を読んだだけのはずなのですが、夢の中では、その光景が浮かんできて、思い切り悪夢でした。飛び降りたのは30代前半の男でした。

彼はスカイツリーから飛び降りようとして飛び降りられる場所が見つけられなかったのかもしれないし、東京の風景を最後に見て自分の人生を振り返ったのかもしれない。目を覚ましたあと、しばらくそんなことを想像してしまいました。

死はどれも等しく悼ましいという考え方もあるでしょうが、私はウイルスで死ぬより自殺の方が辛い。死に至るまで逡巡する時間を想像するだけで息が止まりそうになります。

その時間がいたるところで流れ始めています。

ウイルスによる死を重視し、自殺を容認することにしたこの社会の決断を正しく評価するにはもう少し時間が必要でしょうけど、私はこれに強い反発があります。

すでに鬱症状を発症させている人が増えていることが報じられています。これは病院に来院する人の数でわかります。ウイルスによる死も連日報じられます。

しかし、自殺は日々数字として確認できるものではありません。ビルからの飛び降りや電車の飛び込みのように、第三者に影響を及ぼした場合は報道されますけど、著名人を除けば、自宅内の自殺は身近な人以外には知られることもなく、時には病死として伝えられます。

あとは警察庁が発表する月別の数字から、「例年よりこれだけ多い」と類推することができるだけです。

経済を軽視する人たち、なにもかも自粛しろと騒いだ人たちは、気づけない死は容認できるってことなのでしょうし、この先も、その死をなかったことにするでしょうから、これ以降、せめて私は警察庁の数字を毎月チェックしようと思います。

不可避だったかもしれないけれど、避ける方法が何かあったのではないかとずっと考えています。今回は手遅れとしても、コロナ禍はまだまだ続く可能性がありますし、別の感染症がこれ以降も出てきましょうから、先々のことを考えておきたい。

※夢の中の死者を追悼するためにこの日はスカイツリーに行きました。銭湯のついでですが。

 

 

改めてスウェーデンと日本の違い

 

vivanon_sentence岡江久美子の死でダメージを受けつつ、毎日数十人から百人を超える死者が出ているスウェーデンの数字を見ていても神経をやられるところがあって、スウェーデンの人たちはタフだなあと感心しますが、それでも連日命を自ら絶つ人たちが出ることを想像するよりはましだと私も思います。

スウェーデンは、今のペースで感染者が増えていっても、当面、国全体としての集団免疫は獲得できないので、その前に収束するのではないかと思えるのですが、いずれにせよ、スウェーデンでも潰れる店や会社は出るはず。しかし、その数は他の国に比べて圧倒的に少なくて済む。

では、スウェーデンのような方法を日本が選択することができたのかと言えば絶対に無理です。今のままではどうやっても無理。それがもっとも有効な方法だとわかったとしても無理。スウェーデン方式は国民一人一人が判断をし、決定をしなければならないからです。

スウェーデンの教育と自己決定—裸の文脈(8)」を読み直して、我ながらうまくスウェーデン人の特性をよくまとめているなと思ったのですが、まさにここに書いたことがそのままCOVID-19に対する姿勢となって表れました。その対極にある日本では絶対に無理ってこともよくわかります。

他人の行動が気になってしかたがなく、口出ししないではいられない人々。自分の判断がなく、周りに合わせるだけの人々。異論があっても言えない人々。海外の評価も気になってしかたがなく、何か言われるとひれ伏す人々(「日本スゲー」の逆ヴァージョンで、思考は同じ)。そんな人たちばっかりの国では実行できるわけがない。

※押上の漢方薬局に出ていたもの。板藍根は中国で広く茶として使用され、インフルエンザ予防に効果があるとされているため、今回も注目されていた漢方。納豆派の私としては不要ですが、こういうものを頭ごなしに否定する気にはなれないのよね。これもそんなに高いものではなく、調べて信じられる人は信じればよい。政府や病院がなんでもしてくれると思う人たちより、自身で予防して体が治すと信じる人たちの方がまだしもましな気がしてしまうのです。

 

 

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