これから起こること(倒産・失業・自殺・DV)に備える—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[28]-(松沢呉一)

タイの自殺者調査報告

自殺の話は大きく取り上げることにためらいが生じるので、できるだけ有料部分に押しこむようにしていますが、あまりに鈍感な人たちが多いようなので、そうもいかない。

「大恐慌時の自殺者数の増大と致死率の低下—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[24]」で見たように、正確な数字はわかりようがないながら、大恐慌の最初の3年で1万人以上が自殺していると推測できます。米国だけでこの数字です。

シカゴとバッファローの市場は閉鎖され、投機業者で自殺した者はこの日だけで11人に及んだ。この日は木曜日だったため、後にこの日は「暗黒の木曜日（英語: Black Thursday）」と呼ばれた。

この話はよく知られていて。そのイメージがあるため、「金の亡者たちが株の暴落で自殺しただけ」と思っている人が多いかもしれないですが、そんなのは一部であって、失業して死ぬしかなくなった大多数は雇われの人々やその家族です。

数日前にタイでは失業した人が入水し、5歳の子どもが後追いしたのはすでに見た通りです。

あの報道ではCOVID-19によるタイの自殺者は22名としていましたが、どうして数字がわかったんだろうと思ったら、政府機関がCOVID-19による自殺を調査してました。たぶん22名という数字は途中経過で、4月1日から21日の間のコロナウイルスによる自殺者数は38名、うち28名が死亡しています。

2020年4月25日付け「THAI PBS NEWS」より

このグラフは調査報告書(調査報告書はこちらですが、タイ語のPDFなので読めません)からで、青がCOVID-19の死者数で、オレンジが未遂を含む自殺者数。21日目に数字が重なっています。入水した父と娘は21日の集計分に入っているのだと思われます。これで見るとただの数字。

タイは調査しましたが、こういう数字は他の国では出されないため、総計を比較して類推するしかないわけですが、経済の停滞を選択した国ではどこでも自殺ラッシュは始まっているのだろうと思います。

タイの失業者は数百万人から1千万人に達していて、今後確実に自殺者がCOVID-19による死者数を超えていくため、政府は1人当たり5,000バーツ(16,000円くらい)の支援金を交付することを決定しましたが、時期が遅く、かつこの金額では焼け石に水です。もはやこの流れは止められそうにない。

おかしくないか?　どこの国も狂ってないか?　自分の命が大事なあまり、さして死ぬわけでもない病気で大騒ぎした大人たちが子どもを死に追いやってないか?

言っちゃ悪いけど、COVID-19で亡くなっている人は、COVID-19がなくても同じ時期に、あるいは時期をいくらかずらして亡くなっていた可能性が高い人たちが多数含まれています。そこまで死期が近接していなくても、同世代の健康な老人たちよりも残された時間が短い人たちです。

人の命の価値を勝手に比べるのはよくないかもしれないので、私の命を例にしますが、私の命はもうほとんどを消費していると自覚していますから、5歳の子どもの命の方が数段尊い。

5歳の子どもは感染したとしても亡くなる可能性は限りなく低いですから、彼女はまだまだ先があったはずです。何十年も。

70歳、80歳、 90歳の人を救うために5歳の子どもが自殺するようなことになっていいのか?　どんな命も軽んじられるべきではないけれど、死ななくていい子どもが死んでいくことを避ける対策を選択すべきでした。

「THAI PBS NEWS」が指摘しているように、COVID-19の死者と違って、自殺者は若い層を多く含みます。平均年齢は40歳であり、このうち、経営者は3名のみ。あとは雇われていた側です。

自殺は自身に留まらず、家族にも大きな影響を及ぼします。一家全員で死んだ場合は別として。死ねなかった人もしばしば身体や精神に障害を残しますから、未遂の人もまた周りを巻き込んでいきます。

タイでは政治家たちが自殺を思い留めるように呼びかけをしてますが、そんなもんでは腹は膨れない。

※43歳の父親とその5歳の娘が入水自殺したことを伝えるタイの2020年4月21日付「MGR ONLINE」。失業して寺の敷地に住んでいた男は、仕事を見つけたにもかかわらず、自殺を決意し、娘に「泣くな」と諭したあと入水し、娘は泣きやまず、そのあとを追ったとのこと。

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