松沢呉一のビバノン・ライフ

家庭内殺人と他の感染症による死亡者の増加、飢餓、暴動…etc.—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[29]-(松沢呉一)

これから起こること(倒産・失業・自殺・DV・他の病気の増加など)に備える—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[28]」の続きです。

 

 

 

ロックダウン殺人

 

vivanon_sentenceロックダウンによって犯罪一般は減少傾向にあります。酔っぱらって路上で喧嘩をすることもできない。スリをやろうにも人がおらず、万引きしようにも店が閉まっている。空巣に入ろうとしてもつねに家に人がいますし、警察がパトロールを強化しているので捕まるリスクも高い。

しかし、ロックダウンが解除された途端に犯罪は増えると見られています。ストレスが溜まっているので喧嘩が増える。職業的犯罪者は休業中の収入を取り戻そうとするでしょう。食えなくなった人の犯罪がこれに加わります。

また、外に向けた暴力が減る分、世界中どこでもロックダウンによるDVの増加が報告されています。夫婦間の暴力、親から子への暴力。不安のはけ口を家族に求めるってことですが、これは殺人にも至ります。国によっては家庭外の殺人が減っても、家庭内殺人が増加しているために、殺人の被害者は昨年より増えているとされています。

以下は3月中に英国で起きた家庭内殺人です。

 

2020年4月1日付「Mail Online」掲載「‘Bully’ builder who allegedly ‘shot his partner, their two daughters, four and two, their pet dog and then himself’ at their £500,000 West Sussex home was ‘nasty piece of work’, says neighbour」より

 

 

日本で言う一家心中を含みます(左下のケースでは、妻と子ども2人を殺して自分も死んでいます。3名の殺人ですから家庭内殺人は被害者数が多くなりやすい)。いつだって家庭内殺人はあるわけですから、ロックダウンが原因かどうかは生き残った人(たいてい加害者)の証言を待つしかなく、全員死んでいる場合は遺書がないとわからない。

直接にはロックダウンの影響が意識されていなくても事件が増加するということもありますので、時間が経ってから社会学者かなんかが分析することでしょうけど、イライラが高まって家族内の喧嘩や暴力が増えれば、殺人に至るケースも増えるであろうことは容易に想像できます。

 

 

ウイルス対策よりその悪影響の方が重い

 

vivanon_sentence前回と今回取り上げたCOVID-19の対策がもたらす影響についてはロイターの記事が要領よくまとめています。

 

 

Illustration/REUTERS/Maryanne Murray

2020年4月3日付REUTERS「Researchers warn the COVID-19 lockdown will take its own toll on health

 

 

まさにこのイラストにあるように、ウイルスの恐怖によって、それさえ抑えられれば解決すると考えるWHOや各国政府、国民が望んだ対策は、その何倍もの負の影響をもたらします。

この記事では、世界恐慌の際の「寿命が伸びた」現象については考慮しておらず、あれは工場労働者たちが低劣な労働条件で働いていた時代のものなので、今回はただただ寿命が縮むことになるのかもしれない。「寿命が伸びるのはいいこと」というのがWHO的価値観のはずなのに、WHOが望む施策をとったがために寿命が縮む。

WHOはそれこそを目的とした組織ですから、ウイルスを制圧することだけを考えるってもんでしょう。医療関係者も同じ。目の前の命を救うってもんです。しかし、社会はそれだけで成立しているのではなく、「今ここにある命」を救って、「今ここには見えない命」を見捨てるわけにはいかないですから、各国はWHOの見解を、検討するひとつの意見として受け取ればよかったのです。

WHOも自分らの本分はその範囲のものでしかないことを自覚すべきでしたが、WHOはスウェーデンも批判しており、思い上がりもたいがいにしておけ。タバコや酒をなくせば世界はよくなると信じて疑わないナチス、あるいはどこぞの宗教団体みたいな組織であることを踏まえて、その意見を考慮すべし。

 

 

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