松沢呉一のビバノン・ライフ

インフルエンザをめぐる議論を終わらせたい—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[31]-(松沢呉一)

パチンコ屋を叩くより電卓を叩け!—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[30]」の続きです。

※ここまで感染者に対する死亡者の率を「死亡率」としてきましたが、これは「致死率」とするのが正しいことがわかったので、すべて訂正し、以降は「致死率」とします。

 

 

 

インフルエンザと比較することへの反論に最反論する

 

vivanon_sentenceしばしば「インフルエンザでも多数の人が亡くなっているのだから、COVID-19も同じように対処すればいい」という意見が出て、これに対して、致死率を持ち出して、「インフルエンザの比較にならず致死率が高い」と反論するのが定番です。

しかし、よく考えるとこれはおかしい。「インフルエンザと同じように扱えばいい」という主張は、多くの人が予防接種をせず、病院にも行かずに家で寝て治しているか、発症せず、よって感染したことにも気づかずに抗体を作り出していることを指しています。

以下はmeijiインフルエンザNAV「【インフルエンザの基礎知識】インフルエンザは自力で治るの?」より。

 

 

「自然治癒することがほとんどだけれども、熱が出たら病院に行って治療を受けた方がいいですよ」という流れになった文章ですが、現実には多くの人が自分の体で勝手に治しているのであって、「インフルエンザの検査数が少ないのは政府が数字を少なく見せたいからだ。検査しろー」と騒ぐ人はいない。軽症の人たちが病院に詰めかけて医療崩壊したという話も聞かない。パチンコ屋もライブハウスも休業することはありません。

「インフルエンザと同じ扱いでいい」という主張はこの状態を指しているのですから、まずは病院に行かない人たちにとって、どの程度の致死率かを知る必要があります(いざとなれぱ病院に行って注射してもらえばいいと思っているがゆえに軽い段階では病院に行かないという人たちもいますから、どこまでも同じ条件にはならないわけですが)。

 

 

超過死亡概念ではインフルエンザの致死率は0.1パーセント程度か?

 

vivanon_sentence現に病院で治療する人がいますから、この数字を改めて算出したものは見つかりませんでしたが、推測はできます。

治療薬がなかったスペイン風邪の致死率は2.5パーセントとされています。第一次世界大戦中ですから、そのことが致死率を高めた可能性もあるし、インフルエンザのタイプにもよるのでしょうから、今現在のインフルエンザとは違いますけど、スペイン風邪については、COVID-19より致死率が高かったのです。だから大騒ぎになりました。参考までに。

現在のインフルエンザについては厚労省がこう説明しています。

 

 

厚労省「新型インフルエンザに関するQ&A」より

 

 

超過死亡概念についてはこちらをお読み下さい。インフルエンザから肺炎になって亡くなった場合、死因は肺炎にされるのですが、それだとインフルエンザの実際の死亡率・致死率が出せない。また、病院に来ないまま亡くなる人もいますから、それらを含めた死亡者数を算出するものです。これは検査結果に基づくのではなくて、人口動態統計に基づく推測値です。

つまり、一般的に言われるインフルエンザの死亡率・致死率は、多数の「見えない死亡者」を外した数字であり、これと「感染していたらすべてCOVID-19の死亡者とされる数値」と比較することはできないのです。前回見たようにCOVID-19にも「見えない死亡者」がいるわけですが、インフルエンザはもっともっと多い。

 

 

next_vivanon

(残り 1494文字/全文: 2996文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ