松沢呉一のビバノン・ライフ

感応が奪われた時に人々がとる行動—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[17]-(松沢呉一)

BiSHの無観客ライブで泣けてきた—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[16]」の続きです。

 

 

銭湯で聞こえてきた会話

 

vivanon_sentence前に「ビバノン」に書いたかもしれないですが、最近電話をしてくる人が多い印象があります。私は電話があまり好きではないので、番号を身近な人にしか教えてないんですけど、今は私もふだんほどは電話が苦ではない。

これも書いたかもしれないけれど、銭湯で話しかけられることがいつもより少し多いように思います。「気持ち多い」といった増え方であって、20回に1回話しかけられるのが18回に1回になっている程度ですし、ホントに一言二言ですけど、それだけでも人との接点を欲しい人が多くなっているのだと思えます。

先週のこと。神楽坂の銭湯に行って、脱衣場で服を着ていたら、女湯から中国語の会話が聞こえてきました。

ほとんどの場合、銭湯では男湯より女湯の方が会話が盛り上がっています。この時も男湯はシーンとしていましたので、女湯からの会話がよく響いてました。声からして、おばあちゃんというよりおばちゃん世代同士かと思います。

女湯からの会話が聞こえてくるのはよくあっても、外国語での会話が聞こえてくることは相当に珍しくて、記憶しているのでは、外国人の客におばちゃんたちがカタコトの英語で話していることがあったくらいです。

とくに旅行者だと銭湯は要領もルールもわからない場ですから、遠慮がちになりますし、日本に在住していても、図々しく振る舞うことはためらわれる場でしょう。

しかし、この時はすごく弾んだ口調で、もしかすると、連れ添ってきたのではなく、銭湯で知り合った同士なのではないかと想像してました。

「あら、あんたも北京第三中学出身なの?」

「そうそう。趙先生のクラス」

そんな感じの弾み方。あるいは知己と数年振りでバッタリ出くわしたとか。

他国にいる時にこんなことになった心細さは「感応」を求め、嬉しさのあまり、今の時期は大きな声での長話は禁物であることを忘れたのかもしれない。服の脱着をしながらの会話は距離が離れ、だから声が大きくなるわけで、問題なしですが。

※銭湯の貼紙

 

 

SNSはいらないけれど

 

vivanon_sentence「感応」は表現物を介在するものだけでなく、日常のあらゆるところにあって、それがウイルスでことごとく奪われています。奪われたからこそ重要性に気づきつつあるというのが想田和弘監督の指摘であり、私の指摘でもあります。

なんてことを言いながら、私個人について言えば「感応」を得る必要が相当に薄い方だと思います。

生身の人と人との「感応」ではないですが、本も著者に「感応」することです。その上で、その本を読んだ人と「感応」したい人たちも多い。だから、「読書会」が成立します。誰も読んでいない本ではそういった「感応」が得られないので、一般には流行っている本、売れている本、出たばかりの本を読む。

しかし、私はそれをあまり必要とせず、「今この瞬間誰も読んでいない本」を読む方が好きです。よく書いているように、それが私の本分だと自覚しています。誰かが読んでいるなら任せたい。私は誰も読んでいないものを読んで、誰も気づいていない視点を見出して伝えたい。

しばしば著者は死んでますから、死者に「感応」することで読書は過不足なく完了します。

その「感応」も同意、共感である必要はないので、おかしな記述に気づきやすいのかもしれない。その方向だけで書き手に「感応」することを求める人はおかしな記述を見てもおかしいと気づけないのではなかろうか。

そういった表現物だけでなく、もっとストレートな人間関係においても、長期にわたって濃密な「感応」が続くと逃げたくなります。だから人と一緒に住むことが苦手です。それよりもライブのような時間制限のある場での「感応」を求めます。

生身とは言えなくても、SNSはまさにその「感応」を手軽に得られる方法になっていましょう。フォロワーの数、RTの数、「いいね!」の数で「感応」を確認できて、言葉のやりとりもできます。コロナ以降、SNS依存を深めている人たちは多いのではなかろうか。

その快は私も十分理解しながらも、そこに居続けるとだんだんうざくなってきます。とくにコロナ以降は群衆心理が働きやすくなり、情報の、また、考え方のクラスター感染が起きやすくなるため、SNSは見ないようにしています。

※休業中のヘルス

 

 

私のストレス

 

vivanon_sentenceあっさり見ることをやめる程度にはSNS依存が薄く、それについては問題はないのですが、別のところでの私のストレスがあります。理解されにくいかもしれないですが、私にとってはムチャクチャ重要だったことを実感しています。

 

 

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