ジェノサイドを支えた人々とロックダウンを支えた人々—ナチスの時代とコロナの時代[3]-(松沢呉一)
「ロックダウンにナチズムを見るのは妥当か—ナチスの時代とコロナの時代[2]」の続きです。
Wikipediaの新項目
COVID-19に対策に対する抗議行動については、すでに英語版Wikipediaに項目ができています。
私が確認していたいくつかの国が出ていないですが、できて数日の項目のため、全部をピックアップできているわけではなく、今後さらに増えていくでしょう。
項目名の通り、直接ロックダウンに対する抵抗だけではなく、設備が十分ではない中で従事させられる医療関係者による抗議行動や、家賃を払わない行動などを含めていますが、大半はロックダウンに対する抵抗運動です。
私がチェックできていなかった国も多数出ています。チェックしてましたが、詳しくは見ていなかったケニアでは、マスクをしていないだけで強制検査をされ、ロックダウンから10日で少なくとも6人が射殺されたとのこと。こんな国ではマスクをしない私もすぐ射殺されそうです。
以下は3月の映像。
イラクでも警察に射殺されたのがいるようです。
世界各国合わせたところで、ロックダウンに違反したり、抵抗したりして殺されたのはせいぜい数十人というところであって、ロックダウンに賛成の人たちにとってはとるに足らない死者でしょう。
しかし、ケニアの映像を見ても、皺寄せが来ているのは貧困層です。仕事がなくなってすぐさま干上がる。備蓄もないので、入手するために外に出ると警察に殴られ、抵抗すると殺される。
ロックダウンで殺された人々、死に直面する人々
インド、バングラデシュについては前からチェックしていましたが、以下は4月のインドの様子です。
食料や金を支給する約束だったのに支給されず、メシが食えない。政府が怠けているわけではなく、工場がストップして梱包もできず、輸送もストップしていることの結果だろうと思います。
報道さえされないでしょうが、インドやバングラデシュでは食料が行き渡らないことによる死者がすでに出ていそうです。餓死だけでなく、奪い合いによる死者も。
インドを含めて、移民による抵抗運動も複数起きています。移民や外国人労働者は支給対象から外されていることもありましょうし、自国に戻りたくても空港が封鎖されています。八方ふさがりです。
ロックダウンがどういう層に切羽詰まった不利益を生じさせるのかがわかりましょう。こういった不利益を想像することもなく、あるいはわかっていながら実行されてしまいました。インドにはWHOに批判的な研究者が多かったのに、政府は、そして少なからぬ国民はWHOを選択しました。
前回取り上げたコロラド州知事のジャレッド・ポリスの指摘のように、そりやナチスのジェノサイドと同じ規模、同じ内容のわけはないし、それを意図したものでもないですが、現に特定集団の生存権を脅かすものになってしまった国があることは事実でしょう。
こういった国々に「人権侵害をやめろ」と言ったところで、「おまえらの国と同じことをやっているだけ」と言われておしまい。ロックダウンをよしとしたすべての国に責任があり、それを求めた国民にもそれ相応の責任はあります。これもナチスのジェノサイドと同じ。
日本はロックダウンではないですから、「ロックダウンはやりすぎ」と言っていい立場のはずですけど、無理っぽい。
ロックダウンによって失われたもの
ヨーロッパの映像ではハーケンクロイツは見てないですが、言葉でロックダウンした政府をナチズムであるとしている人たちはよくいます。
ロックダウンは店が営業する権利、個人が移動する権利、生活する権利、集会をする権利、政府を批判する権利を侵害します。また、宗教施設に立ち入れなくなったために信教の自由を奪われているとの指摘がクリスチャンからもムスリムからもなされています。ユダヤ教徒によるものは見ていないですが、おそらく出ていると思います。シナゴーグを破壊したナチスと同じではないかと言いそうです。
(残り 1072文字/全文: 2896文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ