松沢呉一のビバノン・ライフ

禁酒運動と新しい女の対立—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[禁酒編 8]-(松沢呉一)

女たちが酒を飲み、酒を造り、販売する—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[禁酒編 7]」の続きです。

 

 

 

婦人キリスト教禁酒協会はフェミニズムか?

 

vivanon_sentenceHow Prohibition Encouraged Women to Drink」では禁酒法を作った勢力をフェミニストとしていました。婦人キリスト教禁酒協会(WCTU)のことです。あの記事では禁酒法に反した女たちを肯定的に描いていますから、たぶんここでのフェミニストという言葉は否定的意味合いで使用されているのでしょう。糞をつけてなくても「糞フェミ」のニュアンス。

しかし、そもそも婦人キリスト教禁酒協会のような団体をフェミニズムとすることが間違っているのでは? 現に日本でも矯風会がフェミニズムであると思える人たちがいて、その人たちに合わせてフェミニズムを「女の道徳主義」と定義しなおすのであれば、どっちもフェミニズムでしょうが。

婦人キリスト教禁酒協会をフェミニストだとしたがる人たちがいるのは、なにがしかの改革をしようとした点を評価するためかもしれないですが、あくまで体制内の改革であり、体制の綻びは決して許さない人たちです。その体制から外れる女たち、タバコを吸い、酒を飲み、婚姻外セックスをし、社会進出をするような女たちの足を引っ張り、売春する女たちを心底蔑視していた人たちなんですよ!!

対して酒を飲むのがフェミニスト。とは言えないですが、女を縛り付けるものに反発をして、今まで女ができなかったことをやったフラッパーたちにこそフェミニズムを感じます。

キリスト教原理主義の一派が、イタリア移民排除、ドイツ移民排除のために禁酒法を求め(おそらくユダヤ人排除も)、その実現のために婦人キリスト教禁酒協会は婦人参政権を求めたわけですが、婦人参政権を求めたってことをもって、フェミニズムであると言えますか? 黒人蔑視の総裁が率いる道徳団体がフェミニズムであるなら、このシリーズの序章に書いたクイズに答えてみてください。

婦人参政権を掲げたイタリア・ファシスト宣言はフェミニズムですか? 婦人参政権を維持し、母性保護を徹底したナチスはフェミニズムですか?

Women sitting in a car in front of the Belmont Theater in Chicago in 1927. 着色しました。

 

 

ハイカラの次の悪口が「新しい女」

 

vivanon_sentenceここまではおもに米国事情を見てきました。矯風会については全体主義の枠組みが日本民族である点が本家とは違いながら、米バブティスト教団の流れにあって、選民意識が強い宗教道徳団体であることは同じです。ただ、日本では禁酒法を具体的に求めるところまでは至らなかったため、禁酒法実現のために、婦人参政権を求めるということにはなりませんでした。

では、なぜ「男女平等」なんてことを求めていたわけではない矯風会が婦人参政権を求めたのかについては「婦人参政権編」で見ていくとして、日本における禁酒運動とそれと対立する女たちの流れを確認しておきます。

 

 

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