松沢呉一のビバノン・ライフ

消えるのは観光産業だけではない—いつまで鎖国が続くのか[1]-(松沢呉一)

 

 

早稲田の松の湯が今月いっぱいで廃業

 

vivanon_sentenceまずは銭湯廃業のお知らせです。早稲田の松の湯が7月末日をもって廃業です。松の湯はいつ行っても早稲田の学生たちで賑わっていて、新宿区では最後の最後まで残る銭湯のひとつだと信じて疑っていなかったので、驚きました。建物の老朽化と経営者の高齢化が理由だそうです。

昨日、松の湯に行ったら、早稲田の学生らしき集団がいて、先輩は「オレはここに7年通ったんだ。思い出がいっぱいあるんだよ」と言いながら、湯を浴びてました。大学にも7年通ったのか、卒業後も早稲田に住み続けたのかは不明。

会話自粛という貼紙が松の湯にも出てますけど、ほとんど死なない世代ですから問題なし。年寄りと病人は彼らに近づかなければいい。

学生が多い街にある銭湯では、夕方から夜にかけて、授業のあと、サークル活動のあとで連れ立って来ている学生たちが長話をしていることがよくあります。レポートのこと、卒論のこと、サークル内の人間関係のこと、間近に迫った試合のこと、恋のこと、バイトのこと、土踏まずを乗馬鞭で叩くとムチ痛いことなど、いろんな話をするわけで、ただ風呂に入るだけではない空間になっているのです。

地元の商店会や町内会、老人会の人たちも同じ。

一人で来ている人でも、中には数十年にわたって通った人たちもいて、思い出がいっぱいあるわけではなくても感慨があるようで、松の湯の貼紙の前でジーッと佇んでいる人もいました(建物の外には出ていないので、中に入って感慨に耽りましょう)。

多くの銭湯はさほどダメージを受けておらず、むしろ唯一の娯楽として、客が増えた銭湯もあるのですけど、新型コロナによって、正確にはその対策によって、多数の旅館や飲食店が廃業に追い込まれ、それぞれに思い出の場所になっているお客さんたちがいて、店主と別れの挨拶もできないままの人たちもいましょうし、そこを拠点としたコミュニティが消滅したりもしてましょう。

入ったことのない店でも、貼紙を見るといろんな思いが伝わってきて、泣きそうになることがあります。私は、こういうところはたぶん人より敏感。それ以外についてはだいたい鈍感。

 

 

倒産や解雇はこれから本格化する

 

vivanon_sentence倒産や解雇が本格化するのは秋から年末にかけてだといろんな論者が言っています。経済に鈍感な私でもそう思えます。

それこそ一昨日書いた撮影スタジオのように、売り上げがきれいに戻っている業種は、特殊事情がない限り、この先潰れることはなさそうですけど、国や地方自治体からの補償、銀行からの貸し付けで一段落ついたところで、当面売り上げが戻らない業種はそのうち金が回らなくなります。

ライブハウスや各種イベント会場も客を入れ始めてはいますが、満員にはできないため、足りない分を有料配信で穴埋めしようとしています。サザンオールスターズのような大物だったら、億単位の金が動きますが、知名度も人気もないバンドだと売り上げは見込めない。

トークライブでも私のような存在は厳しい。それでもトークの中継なら固定カメラ1台でもいいのですが、音楽ものだと「メンバーの誰某のアップも観たい」ということになって、それができる設備投資や人員が必要になるので、その段階で落ちこぼれるライブハウスもありそうです。

ちなみにロフトグループは、一店舗も潰さず、社員も契約も全員残し、バイトだけいったん解雇。ここまで客入れをしていなかったので、チケット担当もドリンク担当も必要なく、今後もそうは忙しくならないためです。

まあまあ優秀なんじゃないでしょうか。でも、バイトたちは大変ですわね。すぐに次が見つからないでしょうけど、最近、バイト募集の貼紙も見かけます。バイトを解雇した店が営業再開しているので、また人が必要になっているのだと思います。

※松の湯外観。よくある入口改装型で、本体は木造です。

 

 

 

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