松沢呉一のビバノン・ライフ

トイレットペーパーを買い占めた人々についての調査—ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界[9]-(松沢呉一)

ヤヌシュ・コルチャックがゲットーで書き残した言葉—ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界[8]」の続きです。

トイレットペーパーについては「新型肺炎(COVID-19)に触れにくい」シリーズに入れてましたが、あのシリーズは意味をなくしてまして、今回はその内容から、「ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界」に入れておきます。

 

 

トイレットペーパー買い溜め行動の調査

 

vivanon_sentenceちょっと前に、カメラマンの秋山理央から、以下の記事を教えられました。

 


2020年06月15日付「Gigazine」より

 

私もトイレットペーパーの買い占め行動について延々と書いていたように、非常に興味深い現象でした。しかし、データが出て来ないと、それ以上のことはわからず、「この先は研究者に任せたい」と書いていたわけですが、ドイツの研究者たちが調査をしました。

元の報告に目を通してから「ビバノン」で取り上げようと思いながら放置してしまい、この記事が出て1ヶ月が過ぎ、さっきやっと読みました。元を読むまでもなく、Gigazineが十分内容を紹介していまして(リンクしてあるように元ネタの記事があるわけですが)、とくに大きな発見はなし。

若干の補足。22カ国の996名が最終的に統計の対象になっていて、国の多さに比してサンプルが少ないので国単位の細かな比較は難しい。北米とヨーロッパという大きなくくりでの比較しかできないため、それぞれの政府や行政の対応の違いなどを考慮することができず、この調査でわかることはほんの一部でしかないことが前提の調査です。

 

 

意味はなくても安心感は得られる

 

vivanon_sentenceその大きなくくりでは有意な差が出ていて、備蓄量はヨーロッパよりも北米の方が多く、これは1パックのトイレットペーパーの数が多いためではないかとも指摘されています。北米では1パック単位の数が多いのは家が広めだからでしょう。他に「車で買物に行く人たちは大量の運搬が可能」「店までの距離があるため、一度に買い溜めする習慣がある」といったことも考えられますので、この調査だけでは個人の内的事情が数に反映されているとは言えそうにありません。

また、年齢が高いほど備蓄した傾向があるのですが、働いていない高齢者は長期の自己隔離ができるし、買物に行く時間があるってだけかも。国によっては高齢者の自己隔離が早くから推奨されていたことに関係しているかもしれないとも指摘されていて、やはり国別、エリア別に、行政、メディアの動きまでを調べる必要がありそうです。

もっとも重要なのは、エリアを問わず、性格テストでは、誠実で良心的な人ほど備蓄をしていて、「トイレットペーパーを買い占める人は自分勝手な人たち」というイメージとは正反対だった点です。ここも分析しきらないですが、「トイレットペーパーがなくなったら、どっかからかっぱらってくればいい」と考えるような人はたしかに買い溜めしない(笑)。

そういった性格の差はいくらかあっても、結論を言えば「脅威を感じて不安になった人は誰でも買い占めに走り得る」ってことであり、買い占め行動はウイルスにもたらされた不安を解消する方法ってことです。

この安心は主観的なものでしかなく、トイレットペーパーを買ったところで感染しないなんてことはなく、重症化しないってこともなく、死なないってこともない。それで安心を得られるのですから、客観性なんて必要がない。

詳しくは以下の論文を読んでください。

 

Lisa Garbe,Richard Rau,Theo Toppe :Influence of perceived threat of Covid-19 and HEXACO personality traits on toilet paper stockpiling

 

 

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