松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチスのステロタイプと闘う物語—包茎復元計画[15]-(松沢呉一)

ナチスに関する数々の書物や映像が取り上げなかった包皮の真実—包茎復元計画[14]」の続きです。

 

 

 

ナチスの人種観に歯向かった人たち

 

vivanon_sentenceダイアン・アッカーマン著『ユダヤ人を救った動物園』を読んだ人が、どんな本かを問われた時に、答えは多様だろうと思います。いろんな要素が詰まってますので、どこに反応するのかは人それぞれ。「ナチスと闘ったポーランド人の話」でも「動物と人を愛した夫婦の話」でも「戦争と動物の話」でもすべて間違ってない。

「ナチス時代の割礼の位置づけを書いた珍しい本」以外に、私もいろんな表現をしましょうけど、「ステロタイプとの闘いの話」とまとめることもできます。ナチスの人種観は徹底的にステロタイプです。「アーリア人は優秀、とくにゲルマン民族は優秀」「他の民族は劣等、とくにユダヤは劣等で危険」というステロタイプな思想で、数百万人を虐殺しました。

それに抗ったユダヤ人救出運動の人々はそのステロタイプを逆手にとりました。ここが痛快でした。痛快という表現は適切ではないかもしれないけれど。

ドイツ軍の侵攻によってワルシャワ動物園の動物は殺され、稀少動物はドイツの動物園に奪われて、以降は養豚場として命脈を保ちます(のちにはドイツ軍用毛皮製造のためのキツネ飼育場)。もちろん、これはドイツの許可のもとであり、ドイツの管理下です。

動物園の横にはドイツ軍の武器庫があり、周辺にはドイツ兵がうろうろしていて、時には気晴らしのために動物園の中に入ってきます。

そんな場所にユダヤ人を匿うのは危険すぎます。と誰もが思うから、かえって疑われませんでした。

しかも、動物園は多数の人が出入りする場所というイメージがあります。その状態を維持するために、ヤンとアントニーナは友人や親族をわざと呼びつけて頻繁に出入りさせました。その多数の人の中にユダヤ人たちが紛れ込んでいたのです。

彼らは動物を飼っていた獣舎の中に隠れ、また、敷地内にあったヤンとアントニーナの家の中に隠れました。

※映画公開に合わせて『ユダヤ人を救った動物園【普及版】』も出ています。値段も安くなっていて、おそらく短縮版なのだろうと思います。チンコの皮についてはおそらくカットされてましょう。レジスタンスや救援運動についての丁寧な説明もカットされていましょうから、大人は元版を読むことを勧めます。

 

 

思い込みを逆手にとって救出した

 

vivanon_sentence彼らは別の隠れ家から移動してきたのもいますし、ヤンがゲットーから脱出させたのもいます。

ひょんな経緯からヤンはゲットーに自由に出入りできることになって、ユダヤ人を脱出させることができました。ゲットーの外にいるユダヤ人は即処刑であり、ヤンも処刑になる行為をやっています。ゲットーから脱出するとなれば、深夜こっそりと壁を超えて車で逃走するか、ボストンバッグにでも入れて脱出させるのかと思ったら、ヤンは堂々ユダヤ人を真っ昼間に外に連れ出しています。

ドイツ人たちも私同様のステロタイプな発想をするため、これを見逃してしまうのです。

それでも危険なことはあったのですが、ヤンはうまいこと言い逃れています。もしこれが深夜壁を乗り越えたところだったら言い逃れはできなかったでしょう。

結果うまくいったからいいようなもので、すさまじく危険な行為でもあります。もし捕まったら家族はもちろん、関係者も軒並み引っ張られたでしょう。だから、彼らは青酸入りのカプセルを用意していました。

そのくらいの覚悟が必要であり、いつゲシュタポが入ってくるかもしれないので、メモひとつにも気をつけなければならなかったとあります。やはりそういうものです。本書で引用されているアントニーナの日記を見ても、日常のさまざまでしかなく、地下活動については触れていないのでしょう。

ルート・アンドレアスの『ベルリン地下組織』は怪しいと改めて思いました。

Antonina Żabińska, 1930s, Warsaw, photo: rep. Jerzy Dudek / Forum 本にもたびたび登場するヤマネコの子どもでしょう。

 

 

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