松沢呉一のビバノン・ライフ

通所介護施設の対策を急ぐべし—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[5]-(松沢呉一)

米国でも日本でもおそらく死者の半数以上は介護領域での感染—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[4]」の続きです。

 

 

 

検査結果から見えてくること

 

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前回出したここ一ヶ月の間に感染のあった介護施設のリスト」のうち、半数近くが通所施設と訪問介護だと思われます。前回見た5月時点での共同通信の報道では、入所施設(居住できる施設)での感染が入所者と職員を合わせて700名、通所施設では238名だったのに比して、6月以降は通所施設での感染が増えているようです。

そこまでは確認してませんけど、3月以降休んでいた施設が復活し、利用を控えていた人たちも戻ってきているために、ここに来て通所施設の感染が増えているのかもしれない。

あのリストに出した感染者の数はあくまでその時点でのもので、その後、感染者数が増えているケースもあります。

たとえば以下は、7月11日に職員・利用者の合わせて7名の感染が発表された東京足立区の「足立ケアコミュニティそよ風」の運営会社である株式会社ユニマット リタイアメント・コミュニティのサイトから、7月19日付「新型コロナウイルス感染者に関するお知らせ(第10報)」より、検査結果の内訳。

 

 

 

 

すでに接触者の検査は完了していて、計31名が感染。けっこうな数字です。検査した人全体で見ると、7分の1程度が陽性ですから、高率です。

ここは同じ施設で、デイサービスと老人ホームの2本立ての営業をしていて、7月9日にデイサービス担当の社員の感染を確認していて、その経路からデイサービス部門だけで感染したに過ぎないとも言えますが、デイサービス利用者では陽性率4割であり、デイサービスの方が予防が難しいことを示唆しているようにも思えます。

同社は社員や利用者の検温も実施するなどの対策をとっていたと書かれていて、それでも感染が拡大する。どこに問題があったのか気になって検索したのですが、区やNHKが人数を報じているだけで、それ以上の報道は見当たらず。ホストクラブで31名感染者が出たら大騒ぎだろうに。

 

 

通所介護施設の予防は難しい

 

vivanon_sentence一般に入所施設だとまだしも対策はとりやすい。個室ですから、食堂の使用を中止して、個室内で食事をするようにし、娯楽室などの共用スペースは使用中止。風呂も複数の人が同時に利用することを避け、そのたびに消毒をする。庭の散歩も一人ずつ。訪問者も制限する。

利用者は不便ですし、ストレスが溜まりますが、若い世代に比べれば耐えられましょうし、職員を含めた外部との接点部分の対策ができれば、内部での接点は今まで通りにしてもいい。

対して通所施設だと日々外から人が出入りし、マンションビルの1階にあるような施設では、換気設備が整っていない密閉空間に複数の利用者が滞在することもありそうです。

いくら職員がガードしたところで、感染者間の感染は防げず、短時間で利用者が入れ替わるので、消毒もほとんどつねにしなければなりません。同じ方向の複数の利用者が車に乗り込んでいるところも見かけます。

利用者の自宅ほかでの接触は本人に委ねるしかないので、そちらからの感染があることを常に前提にするしかない。

病院では医師、看護師、助手たちはサージカルマスクをした上にゴーグルかフェイスシールドをしていますし、介護施設に対しても厚労省はそう指導しているのですが、徹底はしていません。

サージカルマスクは介護施設にも政府が配布することになっていたのに、ほとんど届いていなかったようです。この分野については行政もやる気がなく、メディアのチェックが甘く、国民の関心も薄いのではないか。私もここまでそうでしたけど、私は「夜の街」についても関心は薄くて、要点チェック以外ほとんど記事は読んでないです。それよりも国外事情に興味が向いてしまいます。

また、医療施設ではCOVID-19以前からの防疫体制や各自に心構えがあるのに対して、介護施設はそうはなっていないでしょう。

事実、そういった施設での感染が続いているわけです。比較的対応が楽な居住介護施設では対策はすでにとられているでしょうから、今後いよいよ通所施設での感染が問題になってきそうです。

※2020年6月30日付「毎日新聞

 

 

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