松沢呉一のビバノン・ライフ

コロナパーティに参加して死亡した30歳はおそらく存在しない—新型コロナウイルスにまつわる都市伝説[上]-(松沢呉一)

 

「味覚のわからない子どもたち」を振り返る

 

vivanon_sentence先日、Googleアナリティクスを見ていたら、「ビバノン」の最初期に出した「“味覚のわからない子どもたち”を誤った方向に誘導する研究者とNHK」にアクセスが連続しました。わずかな数ですから、狭いコミュニティ内で話題になっただけでしょうが、私自身何を書いたか忘れていたので、「どんな内容だったっけ?」と読み直しました。調査の詳細がわからないため、いたって簡素に疑問点を書いただけですが、的確な指摘だと我ながら思います。

ついでに検索して気づいたのですが、ずいぶん経ってから、あの報道のおかしさについての疑義が味覚についての研究者からもなされています。 報道のみの問題なのかどうかについて私は疑問がなおあるのですが、そこはいいとして、すでに他の研究によって子どもの味覚には異常など起きておらず、ただ経験が少ないために、味覚を表現する言葉を身につけていないに過ぎないと断じてよさそうです。つまりは「いつの時代も子どもはこんなもん(だろう)」ってことです。

はっきり答えが出てから、騒ぎ出す人は多くても、報道を見て「ん? おかしくね?」と疑問を抱く性質の人は決して多くはなくて、大多数の人は東京医科歯科大という権威やNHKという権威を疑わず、「子どもの味覚に異常が起きている!!」と騒ぐ。

これは「最近の若いモンは」の変形でもあって、「子どもや若い者たちに異常が起きている」という情報は、上の世代にとっては「自分はそうではない」という保証を得た上で心配したり、呆れたり、哀れんだり、説教したりできる「安心ネタ」です。

もちろん、つねに疑問を抱けるわけではないですが、私はわりとおかしな記述、おかしな主張には疑問を抱く方ではあって、「ビバノン」でもそういう記事をいっぱい出してきてます。

「ん? おかしくね?」と疑問を抱かざるを得ない情報が新型コロナについても流れていて、「「日経ビジネス」が報ずるニューヨークの新型コロナ事情は怪しい—健康な若い世代はほとんど死なない病気[4]」はその典型。

「小児歯科臨床」(JAPANESE JOURNAL OF CLINICAL DENTISTRY FOR CHILDREN)2026年8月号

 

 

コロナパーティの参加者が亡くなったという報道は怪しい

 

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最近ではこの記事。

 

 

2020年7月16日付「CNN

 

最初に読んだのは英文記事だったと思うのですが、どこも内容は似たり寄ったりです。テキサス州サンアントニオ市で、「新型コロナウイルスが感染するかどうか試すためにコロナパーティに参加した30歳の男が感染して、病院で後悔しながら死んだ」という内容を市長が語ったという話。

日本の国内メディアも、通信社の配信記事として、あるいは外報をもとに報じていますが、私がこの記事で「ん? おかしくね?」と思った点はふたつありました。

ひとつは「感染を試すためには感染した人が必要で、その人は感染しているのだから、もう検証する必要はないのでは?」ってことだったのですが、そのパーティ自体は「とっとと感染したい」という人たちが集まるもので、亡くなった人は「ウイルスはデマだ」「パンデミックは捏造されたものだ」という主張を知って、それを確認するためにここに参加したのだと読めるので、そこは納得。

もうひとつは30歳というところです。はっきり怪しいと察知したわけでもなくて、「どうして、この歳で死んだんだ? 基礎疾患があったのでは? そんなヤツがコロナパーティに行くか?」と思いました。おそらく重大な基礎疾患のない健康体でしょう。

テキサス州は感染者が多く、7月に入ってから1日で1万人前後の感染者が出ていて、死亡者も3桁に達する日がしばしばあります。しかし、それでもこの記事が出た段階では死者の総計は4千人台だったはず(今は6千人台)。健康な30歳が死ぬには数が少なすぎます。やはり基礎疾患があったのではないか。だとしたら、そんなところに行くのが間違っています。

健康体でも死ぬ時は死ぬにせよ、もしこれが本当だったら、なおかつ健康体だったら、そんな経緯がなくても、レアケースとして報じられているはずだと思って検索したのですが、このエピソードについての記事はいっぱい出ているのに、「健康な30歳が死亡した」という記事は見つかりませんでした。

テキサス州における7月の年齢別死亡者のデータも探したのですが、見つけられず。ここで私の調査は終了して、「なんか変だな」という印象だけが残りました。

 

 

都市伝説を医師と市長が鵜呑みにした

 

vivanon_sentenceそのあと出たのが以下の「WIRED」の記事。出てすぐに気づいたのではなく、ほんの数日前に気づきました。

 

 

2020年7月17日付「WIRED

 

都市伝説だったでござる。

 

 

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