松沢呉一のビバノン・ライフ

感染することを目的としたコロナパーティはおそらく存在しない—新型コロナウイルスにまつわる都市伝説[下]-(松沢呉一)

コロナパーティに参加して死亡した30歳はおそらく存在しない—新型コロナウイルスにまつわる都市伝説[上]」の続きです。

 

 

 

感染前提のコロナパーティ自体が都市伝説臭い

 

vivanon_sentence「コロナパーティに参加して死んだ30歳」の真偽を調べる、もうひとつのアプローチは、コロナパーティです。これが実際に開かれたのかどうかを調べればいい。しかし、「ニューヨーク・タイムズ」によると、インターネット上にその痕跡はないとのこと。

私だって時々思うくらいで、とりわけ若い世代では「とっとと感染したい」と思っているのはいるでしょうから、感染目的のパーティが一切開かれていないとまでは思わないですが、感染者を呼んで実践するには、短期で告知して人を呼ぶ必要がありますので、それなりには目立つところで情報が出ているはず。さもなければどうやって彼は参加したのでしょう。

口コミによる少人数のパーティだったかもしれないですが、そうだとしても、参加した人たちの誰一人としてこれについて公開の場で書かなかったのか? とくに亡くなったことを知って以降は、誰かしらその場にいた人が書かないではいられないってもんです。

前にドイツの例を書いたように、「自粛ムードなんて忘れて盛り上がろうぜ」というコロナパーティは開かれていて、日本でもおそらく同趣旨と思われる路上飲み会を見かけましたが、感染するためのコロナパーティは最初から存在しないようです。国によっては、また、州によっては意図的に感染させるのは刑事罰の対象ですから、仲間内だけでやるならともかく、おおっぴらにはできない地域もありましょう。

WIRED」が書くように、このタイプのコロナパーティは以前から繰り返されてきた都市伝説の典型パターンのようです。

以下の記事はそこを詳しく解説しています。

 

 

2002年7月22日付「THE VERGE

 

プロトタイプがどうサンアントニオに至ったのかがわかります。こっちからのアプローチでも、例の話は都市伝説、つまりはデマであった疑いが濃厚になりました。

 

 

メディアの責任

 

vivanon_sentence「ニューヨーク・タイムズ」は加筆していますが、大半のメディアは見る限りそのままです。たぶん消したメディアはあるでしょうけど、この場合は訂正を入れて出し続けた方がよりよいかと思います。

医師と市長が語ったこと自体は事実ですから、「それをそのまま出しただけ」との言い分もありそうですが、「誰がいつ死んだのかについての詳細がない」「健康な30歳が死ぬ可能性は低い」「コロナパーティが行なわれた痕跡がない」といったように疑える要素はいくつもあって、事実、一読者である私でさえ「ん? おかしくね?」と思いました。メディアの人間はその疑いを抱いて当然であり、裏取りをするのが当然。それこそが仕事なのですから。

少なくとも、複数のメディアが「都市伝説を事実かのように語った医師とそれを鵜呑みにした市長の発言をそのまま出した報道である」との指摘をしているんですから、自身で検証をして、その結果を報じる責任があるでしょう。自分で調べる能力がないんだったら、「都市伝説だとの説も出ています」と「WIRED」なり「ニューヨーク・タイムズ」なりにリンクするだけでもいいんじゃないでしょうか。

 

 

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