松沢呉一のビバノン・ライフ

「積極的合意」の会社版・職場の恋愛契約(lomance contract)—懲戒の基準[44]-(松沢呉一)

恋愛禁止規定再考—懲戒の基準[43]」の続きです。

 

 

恋愛の全面禁止ルールは無効らしい

 

vivanon_sentence前回見たように、2018年の調査によると、#MeTooによって一時増えた恋愛規定のある企業が幾分減っています。その理由のひとつは社員の反発であり、もうひとつは、社内恋愛の厳しい禁止は憲法違反になる可能性が高いためだと思われます。

米国のほとんどの州では恋愛に関する社内規定は有効なのですが、恋愛やセックスを禁止する規定に反した時に懲戒処分にすることは憲法上無効になり得ます。規定ができるとともにそれに伴う解雇がなされて裁判にもつれこみ、無効判決が出た内容については、撤回した企業がありそうです。

私が社内恋愛、社内セックスの全面禁止賛成に転じたのは「会社が私的領域の行動を禁止する」のではなくて、「従業員が、会社の人間関係を私的領域に持ち出すことを禁止する」と解釈できると思ったためです。職場と私的領域をこれまで以上に峻別をするってことです。

しかし、これを完全に禁止にすることができるのであれば、他の行動も禁止できてしまいます。たとえば組合結成を目論んで、オフの日に社内の人間が集まって話し合いをすることも禁止にできます。社員が連れ立って、労働関係の集会に出ることも禁止にできます。

いかにトラブルが多いとは言え、恋愛やセックスのみを特別に禁止にすることはできないってことのようです。

一方で、たとえば裁判官や検察官、警察官が職務上知り合った加害者や被害者と性的関係を持つことは倫理上許されない。医師と患者の関係もそうですし、教師が生徒と性的な関係を持った時も懲戒の対象にできるのですから、一般企業でも生殺与奪の権力を行使できるくらいに不均衡な関係が存在している場合は禁止をして、懲戒の対象とする論理が立てられます。教師が生徒の親と性的関係を持つのも懲戒の対象にできますから、実際にそこまで規定に入れている企業があるかどうか知りませんが、役員が社員の妻や夫と性的関係を持つことまでは懲戒の対象にできるのかも。

※2019年2月14日付「Vault」。前回出てきた社内恋愛に関する調査です。これを実施したVaultは就職に関する企業体のよう。

 

 

積極的合意の会社版

 

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このように、会社内の恋愛やセックスを規制するには限界があって、米国の企業では、その限界内で大きく二種の規定が導入されています。

ひとつは対象を役員に絞ったもの。役員の場合は人事や評価について左右できる立場にあることが多いため、被雇用者である社員との間に絶対的な支配関係が生じて、純然たる恋愛でもセクハラと見なされやすいってこともあって、無条件に禁止。しかし、下の社員同士の恋愛やセックスは放置。

現にマクドナルドを筆頭に、いくつもの企業でセクハラではない恋愛規定違反による役員の解任がなされていますから、これに基づく解任は法的にも有効です。ただし、これを禁じる社内規定があることが絶対条件であり、それなしに解雇したら裁判で無効とされる可能性が高い。

 

 

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