松沢呉一のビバノン・ライフ

先進国で毛に対するプレッシャーのない国は存在しない—YouTubeで見る脇毛[13]-(松沢呉一)

シリーズとしては「消毒用アルコールを粘膜につけてはいけないとわかった時にはすでに手遅れ—YouTubeで見る脇毛[12]」の続きですが、内容は「貝印の脇毛キャンペーンは画期的、でも共感しきれない—毛から世界を見る[62]」から続いています。

 

 

毛についての観念は複雑

 

vivanon_sentence貝印の脇毛キャンペーンは画期的、でも共感しきれない—毛から世界を見る[62]」に書いたように、脇毛を出した寿司職人が握った寿司は食いたくない。寿司に限らず、食い物屋で脇毛を出すのはやめて欲しい。弁当屋の従業員が脇毛が見える格好をしていたら注意されても仕方がない。だから、包丁を扱う貝印が自社サイトで脇毛を出さないのは理解できます。

あるいは真夏の満員電車で目の前に脇毛があったらイヤじゃないですか? 男であれ女であれ。人にもよるでしょうが、私はイヤです。

公の場において「脇毛は不潔」です。

「脇毛はそこにあるものなのだから、伸ばしているのがナチュラルなのだ」という純朴な主張はおかしいことを「毛シリーズ」では指摘してきました。だったらなぜ鼻毛を伸ばさないのか。なぜ陰毛を伸ばしっぱなしで、プールや海水浴場でハミ毛をしないのか。

そこをごまかさなかったNeon Moonのハミ毛は素晴らしかったな。

毛にまつわる観念は複雑で、どうあれ「伸ばすか剃るか」は個人が決定すればいいし、個人で決定して伸ばすなり剃るなりしていくしかないとして、それは個の領域の話。「出すか出さないか」はまた別基準になってきて、「私が出したいんだから出していいのだ」にはならない。個人の問題に留まらず、他者との関係、社会との関係になります。

では、なぜここ10年か20年、欧米では脇毛を晒す人が増えているのかと言えば、「毛はない方がいい」「毛は不潔」という考え方が、私的領域にまで侵犯してきているからです。その反動です。

具体的には陰毛です。もっとも私的な毛である陰毛もないのが当たり前になってしまった国々で、その反動が起きています。かといってそこをSNSで出すとBANされるため、脇毛が毛を代表しています。

※2020年1月15日「How to Make Armpit Hair Less Noticeable」 この記事はタイトル通り、いかに脇毛を目立たなくするのかを説明したものですが、対象は男女です。男だって陰毛をあれだけ剃る文化圏では男で脇毛を処理するのは多いでしょう。「自分が処理していると、相手が処理していないことが気になる法則」が発揮されて、以前よりも男女ともに毛に対するプレッシャーが強まっていて、だからこそ、それに対する反動が起きているというのが私の見方。欧米では毛に対するプレッシャーがないかのようなウソを企業が拡散してはいかんよ。

 

 

The Pits Projectで見る脇毛

 

vivanon_sentenceでは、貝印が言うように「海外では皆さんふつーに脇毛を伸ばしている」のかどうかを確認してみましょう。

簡単にいっぱいの脇毛が見られて、探す楽しみがないので、今まで取り上げていなかったですが、YouTubeで確実に多数の脇毛を鑑賞するんだったら、米国のThe Pits Projectです。

 

 

 

 

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