ディズニー映画「ムーラン」が話題になることを嫌う中国政府のために「ムーラン」を話題にする-(松沢呉一)
出演者個人の問題で作品が否定されるべきではない
東映の姿勢は大変好ましいと思います。
2020年9月12日付「スポニチ」
ピエール瀧の出演映画の際も同様だったように、観たくない人は観ないことが可能なメディアである映画においては、これでいいんじゃないですかね。
「つねにどんな犯罪でも同様」というわけではない旨をこの記事の続きで説明していますが、つねにどんな犯罪でも同様でいいように私は思います。法で定められた刑罰と手続きによって罪は償えばいい。それに伴って、一定期間起用しないということにもなり、批判もなされることで社会的制裁は十分であって、こんなことになるとは予期できなかった制作会社やスタッフ、キャストまでが連座する必要はない。法律がそうなっているように、個人がやったことなのですから、その個人の問題です。
出版物やCDなど、金を払った人のみが楽しむメディアはすべて同じ。
ムーランの前に次々と立ちはだかる自業自得の困難
さて、このところ話題になっているのはディズニーの実写版「ムーラン」です。
昨年8月、主演女優のリウ・イーフェイ(劉亦菲)が香港警察支持を表明したことで、香港の民主派勢力は反発して、映画のボイコットを呼びかけました。
映画の上映禁止を求めるのはやり過ぎとして、ボイコットまではあっていい。それをどう受け取るのかはそれぞれの判断であり、それでも観たい人は観ればいいだけのこと。
しかし、ボイコットや不買運動はしばしば逆の動きを生み出します。トイレットペーパーの買い占め騒動で見られた、「デマだ」と叩くことや報道することが買い占めを拡大した現象のように、騒ぐことは騒ぐ人たちの思惑を超えた結果を招きます。
とくにこの場合、香港の民主化を望まない中国の国民が主演女優支持のために、映画を観に行くことになって、思わぬヒットになるかもしれない。おそらくディズニーもここまではむしろ歓迎だったのではなかろうか。
私自身、この女優と道でバッタリ出くわしたら罵倒してやりますけど、こうやって自身の意思表示を堂々と述べること自体は天晴との思いもあります。叩かれてトーンダウンしたことの方がみっともない。
この女優個人の考えがどうあれ、映画は映画として評価すればよく、ボイコットをする人たちはすればいいとして、私はこの件はスルーでした。
コロナ騒動を受けてこの映画は公開が無期延期となり、今月4日から配信が始まり、11日から中国の一部の映画館でも公開が始まりました。これに対して、香港のみならず、韓国、タイ、米国などでもボイコットの声が再燃、さらには映画のクレジットにウイグルの政府機関への謝意が入っていたことで問題が拡大し、米上院議員もこれを批判し、中国共産党もこれに反論。
この段階で「出演者個人の問題と映画は別」という範囲を大きく超えて、映画そのものの問題であり、ディズニーの問題になりました。それでも作品は作品として評価すればいいと思うのですが、この映画はヒットしないことを中国政府が望むことになってます。
※2019年8月17日付「CNN」
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