松沢呉一のビバノン・ライフ

なぜスウェーデンはああも叩かれたのか—スウェーデン方式は正しかった[中]-(松沢呉一)

感染者・死亡者・陽性率の劇的低下—スウェーデン方式は正しかった[上]」の続きです。

※さっき気づいたのですが、Anders Tegnellはスウェーデン語読みでは「アンデシュ・テグネル」という表記が近いんですね。北欧の国々ではrの読みが変(サイレントになったり)というところまでは認識していながら、英語経由の読みにしていました。「そう聞こえる」と言った方がいいのでしょうが、rsは「シュ」になるようです。原語読みに近い表記が適切だと思いつつも、いまさら全部直すのも大変だし、どうするかはまた考えます。→全部直しました。

 

 

なぜスウェーデン方式は叩かれたのか

 

vivanon_sentence前にも書いたと思いますが、スウェーデン方式がどうしてああも国外メディアから叩かれ続けていたのかと言えば、WHOが推奨する方法と真っ向から対立したからであり、多くの国がとった方法が間違っているかもしれないことを浮き彫りにしてしまうからだろうと思います。

中国の後追いをして、アンデシュ・テグネルの言う「ハンマーでハエを殺す」ようなものであるロックダウンをやってしまった国々としては、ハンマーを使用せず、適切にハエたたきでハエを殺すスウェーデンには失敗してもらわないと困るのです。あんな国が成功したら、それを決定した政府も、それを支持したメディアも、それを求めた国民も自分が恥ずかしい。

また、各国のアンチ・ロックダウン派、アンチ・マスク派がスウェーデンを手本として掲げたため(これらの行動ではよくスウェーデンの国旗が振られている。下のSS参照)、それらを押さえるためにシンボルであるスウェーデンを叩くことがお約束になっていたように見えます。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

だいたいどこの国でも、メディアはアンチ・ロックダウン派、アンチ・マスク派を「トランプ支持者」「陰謀論者」として切り捨てていて(米国ではおおむね正しいですが)、そうじゃなくても「ロックダウンに反対しているのは一部の人たち」としてきたため、国単位でロックダウン拒否をしたスウェーデンの存在は頭の上のたんこぶです。

その時にわかりやすく叩ける点としてしばしば持ち出されたのは死亡者の多さです。これまでずっと書いてきたように、また、前回も確認したように、スウェーデンで死亡者が多かったのは、老人・病人対策に初動で失敗したものによるものにもかかわらず、「スウェーデン方式は死亡者を多く出した」と言われてしまいました。

スウェーデンのこの失敗は移民や外国人労働者の多さに関係していて、米国でもドイツでも移民や外国人労働者の間で感染が拡大しました。ここをことさらにスウェーデンの失敗とするのは、移民が多いスウェーデンを批判することにもなって、排外主義者たちにも利用されます。「移民を受け入れたからああなったのだ」「移民がウイルスを拡大するのだ」と。

しかし、なんでもいいからスウェーデンを叩きたいメディアはここをスウェーデン方式の失敗として叩きました。

こんなことをしていたために、いまさらスウェーデンを参考になんてできないんでしょうが、そうこうするうちに、ドイツのアンチ・ロックダウンのデモは万単位に膨れ上がり、まんまとネオナチや反ユダヤ勢力活躍の場を作り出してます。なにしてんだか。

※ベルリンのアンチ・ロックダウン・デモの様子。こちらの動画から。

 

 

スウェーデンの集団免疫についての誤解

 

vivanon_sentenceもうひとつなんでもいいからスウェーデンを批判したいメディアが取り上げたのは集団免疫です。最初からスウェーデンは集団免疫を目的にしていないことは繰り返しアンデシュ・テグネルが言っていた通り。結果として起きる可能性を否定せず、また、集団免疫が成立すれば問題は解決するといった発言をしていただけ。

にもかかわらず、「スウェーデンの集団免疫獲得は成功しない」と批判し、アンデシュ・テグネルは「そんなことを目的にしてねえよ」と何度も何度も表明。うんざりしたろうと思います。私でさえも、「スウェーデンは集団免疫計画に失敗した」と言いたがる人たちにうんざりしていたくらいで。山本太郎とかよ

日本でこういうことを言っていた人たちはほぼ間違いなくスウェーデン公衆衛生局のサイトなんて一度も見てないでしょう。有益な情報を提供し続けているんだからたまには読むといいと思いますし、とくに批判するなら、対象国の情報をチェックするのは当然だと思いますが、せいぜいのところ、英米メディアをつまんでいただけでしょう。怠け者どもが。

 

 

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