松沢呉一のビバノン・ライフ

スウェーデンは集団免疫を獲得したのか?—T細胞による細胞性免疫[上]-(松沢呉一)

今からでも世界はスウェーデンに学べるか—スウェーデン方式は正しかった[下]」の続きですが、別建てにしました。

 

 

免疫暗黒案件

 

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感染者・死亡者・陽性率の劇的低下—スウェーデン方式は正しかった[上]」で取り上げた2020年9月11日付「FINANCIAL TIMES」掲載「Anders Tegnell and the Swedish Covid experiment」は本人に取材しているだけに記述は正確で、あまりに多くの人たちが誤解してきた「スウェーデン方式は集団免疫が目的」という説をアンデシュ・テグネル本人が否定しています。

しかし、「急速な感染の減少は集団免疫のためではないかと見ている」ともアンデシュ・テグネルは言ってます。目的にしていたわけではないにしても、このことはつねに頭にあったでしょう。

早い段階でスウェーデン公衆衛生局はストックホルムでは集団免疫が機能しているかもしれないとほのめかすコメントを出していたことがあります。可能性があるという程度のニュアンスだったのですが、「ホントかよ。早すぎだろ」と私は思い、たしかそのあと打ち消すようなことをアンデシュ・テグネルが言っていたはずです。早とちりだったのか?

しかし、この頃から、「immunological dark matter」がちらほら話題になってました。免疫暗黒案件。さまざまな言い方がなされていますが、抗体以外の免疫機能が存在し、その有無が発症や重症化、死亡率の差を左右しているのではないかとの見方です。

これが「東アジアはなぜ死亡者が極めて少ないのか」という疑問にもつながるのですが、そういった大きなエリアの比較では、さまざまな要因がからむので、抗体以外の免疫機能かどうか判断がつきにくい。同じ国の中で、似た文化の元で、似た生活をしているはずのエリアでも、そのような差が生じる例があるのです。

日本国内でも県によって大きな差がありましたし、今もあります。人口密度だったり、人的移動だったり、納豆だったり(笑)で説明可能な場合もあるわけですが、早い段階から、世界各国で、こういう議論が始まっていて、「どうも新型コロナが登場する以前から、それに対する免疫をもっていた人たちが一定数いたのではないか」という説が出てきます。あくまでそう考えないと説明ができないということからの推論です。

BCG説や白血球説もその説明をする仮説ですが、これらは大きな枠組みには有効でも、より狭いエリアの差は説明ができない難点があります。BCGの接種だったら、だいたい国単位で同じですし。

 

 

スウェーデン国民の抗体率

 

vivanon_sentenceアンデシュ・テグネルが集団免疫をすでにスウェーデンでは獲得しているのではないかと推測しているのも「非抗体免疫」が前提としか思えない。じゃないと数字が合わないのです。

最近、アンデシュ・テグネルはスウェーデン国民の30パーセントが抗体を持っていると言っています。

こちらのロイター記事では4月末の数字で7.3パーセントです。だから集団免疫はほど遠く、当面実現しないという内容です。感染拡大のピークは6月ですが、7月から落ちていきますので、これ以降の4ヶ月ちょっとで4倍になったとは思えない。

アンデシュ・テグネルの言う30パーセントはストックホルムの数字かもしれない。スウェーデンでは突出してストックホルムでの感染者が多いのです。4月の調査でストックホルムでは17パーセントですから、これならあり得ます。

元の調査が見つからないのですが、この数字から考えると、スウェーデン全体では現在13パーセントから14パーセント程度でしょうか。ストックホルムの半分弱。

何パーセントで集団免疫を獲得できるかについては数字の幅が大きくて、以前は60パーセントと言われてました。この数字からすると、今現在のストックホルムでも集団免疫を獲得できているはずがないことになります。まだ半分。

WikipediaよりT細胞

 

 

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