松沢呉一のビバノン・ライフ

恐怖を煽る報道とフェイクニュース—パンデミックとメディアの関係[2]-(松沢呉一)

18カ国からの報告集を読む—パンデミックとメディアの関係[1]」の続きです。

 

 

 

韓国で指摘されているメディアの問題点

 

vivanon_sentence前回見た報告集「CoViD19 and the Media: Devastation or Renaissance?」では、アジアから韓国と香港の報告が出ています。たまたまの経緯でそうなっただけかもしれないし、なんらかの基準で選択して日本が外れただけかもしれないけれど、こういう時に、もはや日本はアジアを代表する国ではなくなったのだな。ここ数年よくあることですが、こんなところでも凋落を実感。

韓国の報告では経済的ダメージについてはまったく触れられていません。これは報告者の関心によるものなのかもしれないですが、おそらく韓国では日本同様、新聞が続々消えるほどのダメージはなかったのでしょう。事実、ハングルで検索しても出てきません。

その代わりに取り上げているのはプライバシー侵害と恐怖を煽る報道です。プライバシー侵害は感染した人の身許が特定されて、バッシングされるようなことです。こういうところはそっくりですから、日本と同様、韓国ではいかにもありそうです。

恐怖を煽る報道についてハングルで検索してみると、SARSの時の反省から、それを諌める記事、訂正する記事が多数出ています。

しかし、この報告者は恐怖を煽る報道がよかったのか悪かったの結論は出ていないとしています。

プラスの側面としては、恐怖心によって外出を控え、外出した場合は距離を堅持し、マスクの着用を各自徹底し、帰宅後に手洗いを心掛けるようになることが挙げられますが、マイナス面としては過剰な対策を公権力に求め、他者の行動までを監視し、自分の基準に達していない人をバッシングするといったことが挙げられます。感染者や感染者を出して施設を叩くのもその表れのひとつですから、プライバシー侵害も促進したでしょう。

ここは意見が分かれるでしょうけど、ロックダウンもまたその表れであって、前回見たオランダでは、政府はゆるい対策を想定したのに対して、国民が「学校を閉鎖しろ」と政府より先に騒ぎ出しています。そしてロックダウンによって新聞や雑誌の衰退をも招きました。恐怖を過剰に煽ったメディア自身が消えるんだったら自業自得として。

※2020年2月11日「ハンギョレ新聞」より。時間が経って、「恐怖を煽る記事を批判する記事」を読み直すと、これらの記事もまた行き過ぎているように感じないではない。この記事では冒頭で「武漢肺炎」という用語を取り上げ、WHOが使わないように勧告したことを踏まえ、なお使い続けているメディアを批判していますが、私はこれを「不要に恐怖を煽る表現」とは思いません。Facebookに前に書いたと思いますが、「スペイン風邪」のように発生源や流行地域とは無関係の地名をもってくることは「誤用」に近づくとして、今回の発生地は武漢であり、事実関係の間違いはない。中東呼吸器症候群(MERS)、アフリカ紅斑熱(African tick-bite fever)などの名称が使用されていることにはなんら配慮せず、今回のみ中国に配慮することこそが過剰であり、あきらかに政治的な選択です。それによって中国人やアジア人に対する警戒心が高まることを危惧するのであれば、「武漢が発生源であること自体に触れてはならない」ということになります。名称でそうなっているのではなく、事実を報じることでそうなっているのです。使うべきではないと思うなら自分らが使わなければいいだけのことであり、使い続けていることを批判すると、香港や台湾を批判することにもなって、いよいよ中国擁護の姿勢でしかないことがはっきりしましょう。

 

 

フェイクニュースと陰謀論

 

vivanon_sentence韓国以外からも、いわば「情報の劣化」についての指摘がなされていて、フェイクニュースに対する取り組みを実施していることを何人かの報告者が書いています。実際、各国でファクトチェックのページが複数できていますし、それ専用のサイトではなくとも、ファクトチェックをやっていたメディアや個人のサイトは多数あります。私もやってましたし。

このフェイクニュースと隣接するものとして陰謀論があって、たとえばカナダでは46パーセントの人がなんらかの陰謀論を信じていて、26パーセントの人が「新型コロナウイルスは中国の生物兵器が研究所から漏れた」と信じているとの数字が紹介されています(たんに「研究所から漏れた」は否定すべき陰謀論とは言えないことは今まで繰り返してきた通りで、生物兵器に限定したこの質問は正しいのですが、こちらもはっきりした証拠が出てきていない以上、断定的に書くべきではない)。

 

 

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