松沢呉一のビバノン・ライフ

スウェーデン・マルメでコーランを焼く極右とムスリムの暴動—ポストコロナのプロテスト[14]-(松沢呉一)

北欧のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)—ポストコロナのプロテスト[13]」の続きです。

 

 

激化するアンチ・イスラムの行動

 

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前回見たように、北欧の6月はBML月間だったのですが、8月末に入って極右による反イスラムの行動が活発になり、両者の対立が激化。

以下はスウェーデンのマルメ(Malmö)での暴動。

 

 

 

 

前々回見たThe Nordic Resistance Movementと同じではないかもしれないですが、北欧極右ネットワークがこの背景にあります。

始まりはデンマークです。デンマークに元弁護士であるラスムス・パルダン(Rasmus Paludan)という極右活動家がいます。2017年に政治団体Stram Kursを結成し、インターネットによって支持を拡大。日本で言えば桜井誠みたいなもんです。現在は選挙での得票は1パーセント台の弱小政党ですが、こういった連中がたいていそうであるように、ネット向けに目立つ行動をやりたがり、コーランを侮辱する行動を繰り返しております。それによって逮捕もされて、実刑判決も受けています。憎悪煽動です。

パルダンはもともとスウェーデン人で、スウェーデンからデンマークへの移民です。そこに何かねじくれたものがありそうですが、そこはどうでもいいとして、パルダンはそのことを根拠として、自分はスウェーデンの市民権を得る資格があるとの主張をしています。

 

 

スウェーデンはパルダンの入国を拒否し、コーランが焼かれ、暴動に

 

vivanon_sentence今年8月26日、パルダンはマルメで予定されていた行動のためにスウェーデンに入国しようとしたのですが、スウェーデンは入国拒否をして国外追放。これも憎悪煽動が予想されたためです。

パルダン不在のまま、スウェーデンの受け入れ先(パルダンがリーダーの政治団体Stram Kursのスウェーデン支部のよう)がコーランを焼き、これがきっかけで8月28日夜、暴動になり、暴動に加わった300人程のうち、15名が逮捕されました。

自動翻訳で読んでいるので正確に情報をつかめていなかったためでもあるのですが(日本語の報道を読もうにも全然報道されていない。海外メディアの日本語版で取り上げているものがありましたが、内容は不正確です)、この報道を最初に観た時に私は大きな誤解をしてました。

この逮捕は「民族グループに対する煽動」の容疑と報道しているスウェーデンのメディアがあって、そのため、この暴動はパルダンの入国拒否に怒った反イスラム派の暴動だと思ってました。この暴動でムスリムへの攻撃を煽った罪で逮捕されたのだと。

いくつかの記事を読んでいるうちにわかるのですが、この暴動はコーランを焼いた行為に対するムスリムのものでした。この暴動での逮捕は暴動そのものの容疑で、この前に反イスラムの極右がコーランを焼いたことで3名が逮捕されています。この時の逮捕が憎悪煽動容疑でした。わかりにくい(もうひとつこれをわかりにくくしていた犯罪容疑があって、これについては次回詳しく見ます)。

おそらく報道はムスリムと限定することを避けていたための誤解です。直後の報道では「誰がやったのか」を断定することを避けるのは当然ですが、ここははっきりさせないと誤解を生むし、正しい理解ができなくなります。

とくに、スウェーデンの事情など知らない私ら日本人にとってはマルメという場所が理解できず、なぜパルダンがここで行動をしようとしたのか、どうしてここで暴動が起きたのかも理解できないですから、この対立の背景がまるで理解できないでしょう。私も理解するのに苦労しました。なお理解しきれないところもあります。

※ラスムス・パルダン率いる極右政党Stram Kursのロゴ

 

 

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