松沢呉一のビバノン・ライフ

ベタ・イスラエルはエチオピアでもイスラエルでも差別され続けている—ポストコロナのプロテスト[24]-(松沢呉一)

エチオピア人がイスラエルでプロテストをする事情—ポストコロナのプロテスト[23]」の続きです。

 

 

 

エルサレムでの生活も厳しく、差別も厳しい

 

vivanon_sentenceイスラエルに移住したベタ・イスラエルの生活は楽ではなく、農業をしていた人たちも土地がなく、結局失業している人たちが多数。なおかつエチオピアと変わらず差別がひどい。

エチオピアでは地理的に他のエチオピア人との接点があまりない場所での生活だったため、差別を実感する機会もあまりなかったのに対して、イスラエルでは頻繁に差別に晒され、ひとたびイスラエル社会に溶け込もうとしたベタ・イスラエルたちは、壁に阻まれ、エチオピアでの生活スタイルに戻す動きもあります。

見た目はエチオピア人ですから、改宗して、住む場所を移せば出自がわからなくなるエチオピアに対して、イスラエルにおけるベタ・イスラエル差別は肌の色の差別です。

同じユダヤ教でも祈りが違うとか作法が違うとかもあるかもしれないけれど、路上で射殺する際にそんなことはわからない。

現在イスラエルにいるベタ・イスラエルは、自分もいつかイスラエルに行くかもしれないわけで、ベタ・イスラエルが殺されるような社会は人ごとではない。なおかつ、親族や知人もすでにイスラエルに移住しているのですから、その点でも人ごとではない。

 

 

米国務省による「年次人権報告」でのベタ・イスラエル

 

vivanon_sentence片っ端からベタ・イスラエルについての記事を読んでいたのですが、イスラエル国内でもたびたび大きく取り上げられています。ああいう政権ですから、もっと報道の規制が厳しいのかと思っていたのですが、国内の報道についてはゆるそうです。あれだけデモの映像もアップされているわけですしね。ただし、国外の記事については検閲があり、インターネットの監視も厳しいようです。

2019年7月22日付「MIDDLE EAST EYE」では、 ベタ・イスラエル5人のインタビューを取り上げています(上のSS)。さまざまな局面での差別が出ていますが、とくに警察がひどいようです。デモでも黒人だけが逮捕されるとあって、ここまで出した映像を観ても、ベタ・イスラエルのデモに対しての警察は明らかに暴力的です。ソロモン・テカが殺された時のプロテストは直接に警察がプロテストの対象ということもあるかもしれないけれど。

あとは数字的根拠が欲しいので、探してみましたさ。

同じくMIDDLE EAST EYE」の2017年3月17日付の記事は、コラムニストで大学講師であるEfrat Yerdayによる「Recognising the discrimination Ethiopian Jews face in Israel is a step in the right direction」で、学者の文章なので難しいですが、いい内容です。タイトル通り、正しい方向への第一歩は、エチオピア・ユダヤ人が直面している差別を認識することにあるという内容です。ここでも事実を正確に知ることが大事とされています。どこの国のどこのエリアのどういう差別でもここから始めるしかない。

この記事によると、この年の米国務省による年次人権報告では、中国の次にイスラエルとパレスチナにページを割いていて、141ページに及ぶとあります。この年初めてベタ・イスラエル(原文では「Ethiopian Israelis」)に対する差別が大きく取り上げられているとあるので、ざっと読んでみました。たしかにものすごい量です。

全体としては圧倒的にパレスチナ関係が多くて、それに比べると、ベタ・イスラエル(原文では「Ethiopian ancestry/エチオピアの祖先」)はささやかで、特別に項目があるのではなくて、各項目に取り上げられているだけですが、これさえも今まではなかったのでしょう。米国務省も第一歩を踏み出したってわけです。

警官によるベタ・イスラエルの兵士に対する暴行の件も出ています。

 

 

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