松沢呉一のビバノン・ライフ

メキシコの法規制が警察の暴力を加速させている—ポストコロナのプロテスト[31]-(松沢呉一)

トランスジェンダーのセックスワーカーが次々と殺害される—ポストコロナのプロテスト[30]」の続きです。

 

 

 

世界は人を殺しすぎ

 

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ナイジェリアの警察や軍は、どうしてああも人を殺すのかと呆れます。プロテスター側もけっこう殺していて、殺された警察官も二桁に達していそうです。

そういう場面ばかり観ているからであって、ナイジェリア人の誰もがすぐに人を殺すわけもないことはわかっていながら、私がナイジェリア人だったら、今までに3回は人を殺して、3回は殺されているように思えてきます。

殺人の定義や算出方法が違うので、各国の数字比較は難しいながら、国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime/UNODC)のデータで10万人当たりの殺人発生率を見ると、日本は例年0.3人くらい。ナイジェリアは10人くらい。警察や軍が鎮圧のために(鎮圧とは思えないけれど)人を殺しても、殺人にカウントされないでしょうが、それを除いても、日本の30倍くらい殺人が起きてます。

ナイジェリアはそれでもマシな方で、メキシコは日本のざっと60倍から70倍くらい。ブラジルは90倍から100倍くらいです。日本の都市で年間1人殺されるとすると、ナイジェリアの同規模の都市では30人が殺され、メキシコでは70人殺され、ブラジルでは100人殺されます。

東アジアからすると、世界中どこも人を殺しすぎ。仏教の強い国からすると、もしくは無宗教が多い国からすると、キリスト教の強い国やイスラム教の強い国は人を殺しすぎとも言えます。

そのブラジルでも、発生率の比較では世界のベスト10にも入れない。メキシコはやっと20位くらい。南アはブラジルの上ですが、全般的にラテンアメリカは強い。

しかし、両国とも人口が多いため(ブラジルは2億人、メキシコは1億2千万人)、国内の発生件数の比較で言うと上位になってしまい、どんな属性や条件で抜き出しても両国は世界のトップクラスです。

トランスジェンダーが殺される件数はブラジルが世界1位でメキシコが2位らしいのですが、人口が多いため、ここから単純に両国はトランスフォビアが世界でもっとも強いとは言えず、世界にはトランスジェンダーとして生きていくことがそもそも困難な国も多数ありますから、それよりは少しマシかもしれない。世界は過酷です。

UNODCの年次報告書(2018版)

 

 

連邦法では非犯罪化が達成されているのだけれども

 

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とは言え、セックスワーカーの中で、トランスジェンダーが多く殺されている事実からもメキシコでのトランスフォビアの強さは明らかでしょう。

では、メキシコでセックスワーカーはどのくらい殺されているのか。データがないか調べたのですが、どこにもはっきりした数字が出ておらず、「信頼できるデータはない」と書かれているものがありましたので、ないのでしょう。

他の国のデータで、昨年同期に比して今年は増えていると書かれたものがありました。ロックダウンで仕事ができない期間があったにもかかわらず、増えているということは、ロックダウン開けから急速に増えているのです。ロックダウンで憎悪感情、差別感情が高まっている上に、失業して犯罪に走るのが増えてますから。

セックスワークについてのメキシコの法規制をざっと調べたのですが、連邦法にはセックスワークについての規定はありません。非犯罪化が実現されています。

メキシコは州の自立性が高いので、あとは州で決定するという考え方の表れですけど、全体に非犯罪化に向っているようです。

 

 

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