松沢呉一のビバノン・ライフ

人が死ぬプロテスト・人が死ぬ十代の抗争・人が死ぬサッカー—ポストコロナのプロテスト[45]-(松沢呉一)

同性愛者が公開鞭打ち刑になるインドネシアのアチェ州—ポストコロナのプロテスト[44]」の続きです。

 

 

道徳の法制化が進むインドネシア

 

vivanon_sentenceムスリム用の法律であるシャリーアをインドネシアの国法にしようとしたのが昨年の刑法改正案です。

「同性愛行為で刑事罰はおかしい」と言っても通じないのがデフォルトの文化圏がなお世界には多数あります。抑圧的な性観念はイスラムの特性であるのも事実ではあれ、キリスト教はましな部分が見えやすいだけのことです。いわば世俗化されている部分が見えやすいだけで、宗教的信念を他者に押しつけないではいられないのは、キリスト教の強いエチオピアだってそう。ロシアやポーランドだってそう。矯風会もそう。

なんとなく世界はリベラルな方向に向っているのだと思ってしまうけれど、そんなことは全然なくて、むしろ逆行している国も多く、イスラムの保守化、原理主義の台頭がこの改正案の背景にあるとインドネシアでも解説されています。

国外の報道ですが、abcニュースもこの動きを警戒する報道をしています。一昨年のものです。

 

 

2018年9月9日付「abc news

 

これによると、2017年以降、インドネシアでは急速に原理主義が台頭して不寛容な社会になっており、アチェに限らず全土でこの傾向が進行しているとのことです。

もともとインドネシアでは他教徒に対する迫害は強かったのですが、モスクの祈りがうるさいと文句を言っただけで仏教徒が投獄された例などが出てきています。イスラムの信仰に対する冒涜ってことでしょう。だから宗教に対する冒涜を刑事罰にしてはいかんのだって。と言ってもアチェではまったく通じない。日本でもこれが通じない人たちがいっぱいいるくらいで。

この中に「はしかのワクチンにハラーム物質が含まれている」とイスラム団体が指摘したため、ワクチン接種が進まず、亡くなった赤ん坊がいると書かれています。かつて薬のカプセルには動物性の脂が含まれているためにムスリムは服用しないという話を以前どこかで読みましたが(今は植物性らしい)、イスラム系反ワクチンもあるのか。イスラム系プランデミックもありそうです。ウイルスは堕落した人間に対する神の罰だと言っている宗教はいくらでもあるか。

国外からの批判も浴びて、また、学生たちの強い反発もあって、昨年9月にジョコ・ウィドド大統領は刑法改正を見送る発表をしましたが、コロナ禍でこの流れが強化されることはあっても弱まることはないですから、いずれまた浮上しましょう。

 

 

内容がわかっていなくても反対して暴れる学生たち

 

vivanon_sentenceこの法案が流れたあとの昨年10月になってもなおプロテストが続いていました。正確にわからなかったのですが、刑法改正は多岐に及び、その一部は残ったようで、汚職法(腐敗法)改正によって汚職を監視する役所が縮小されることに反対していたみたい。

こちらも十分激しくて、学生1人が胸を撃たれて死亡しています。

 

 

 

 

そこまでインドネシアの学生たちは政治に敏感なのか? リードしている層はそうだとして、数千という単位がこうも毎度集まるほど、広く政治意識が浸透しているのか?

なぜ毎度のごとく「デモをやっているヤツらは法律の中身を知らない」という指摘がなされているのかだんだんわかってきました。どこの国でもわかっていなくて参加しているのは一定数いるわけですが、インドネシアはそれが大半のようです。

事実、今回のオムニバス法をめぐる騒動で、放火容疑で捕まった大学生のインタビューが出ていて(拘束されている容疑者でも取材は可能なよう)、「友だちに誘われただけ」と言っていて、法案の中身はよくわかっておらず、興味もなさそうでした。数年、あるいは十数年は刑務所から出られないのに、お気楽すぎます。

デモに参加するハードル、投石をするハードル、火炎瓶を投げるハードル、放火するハードル、死ぬハードルのすべてが低いのです。

 

 

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