松沢呉一のビバノン・ライフ

メタリカやナパーム・デスが好きなジョコ・ウィドド大統領—ポストコロナのプロテスト[46]-(松沢呉一)

人が死ぬプロテスト・人が死ぬ十代の抗争・人が死ぬサッカー—ポストコロナのプロテスト[45]」の続きです。

 

 

インドネシアはメタルが盛ん

 

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火炎瓶がすぐに飛び交うプロテストスタイル、小学生から始まる刃物を振り回す抗争、死者が出るサッカーのフーリガン、そして、もうひとつ、ここに通じるかもしれないのは、インドネシアではメタルがムチャクチャ強いってことです。ライブで暴れるのが好きみたい。ライブで乱闘になって死ぬことはたぶんないので、若いヤツらはメタルを聴くといいんじゃないかな。聴いた上で、よそで乱闘したり、デモをしたりして死んでいるのかもしれないけど。

ミルクティー・アライアンスとインドネシアのプロテスターたち—ポストコロナのプロテスト[42]」に、「インドネシアに一点のみ興味があります」と書きましたが、私がインドネシアに興味があるのはここです。

私はメタルの中でデスボイスものだけは聴きます。デスボイスはパンクに通じますので。過去にはガムランに興味を抱いたことくらいはあっても、また、バリ島は一度は行っておきたいと思ったことはあっても、私がほとんど唯一興味があるインドネシアはそこだけ。

インドネシアのバンドもFacebookでフォローしています。たとえばREVENGE OF THE FATE

 

 

 

 

この客の盛り上がりがプロテスト、中高生の抗争、サッカーの熱狂に通じるわけです。知らんけど。

ここから始まって、他のジャンルも聴いたら、メロコア系でもいいバンドがいるんですよ。

インドネシアのデスメタル系を「ビバノン」でまとめようと思ったこともあるのですが、ちょっと難点があって、首までのインドネシア系タトゥ率が高いくらいのことは言えても、音楽そのものにインドネシアらしさはあんまりない。インドネシア語で歌っているとまだわかるわけですが、歌詞が英語だとどこのバンドかわかりにくい。

日本のバンドともさして変わらず、インドネシア人が作ったリストを流していると、たまに日本のバンドが入っていて、「あ、日本語だ。日本のバンドか」とやっと気づくくらい。「だったらカラオケで歌える可能性がある日本のバンドを聴いておけばいいべ」になってしまって、この試みは途中まで書いて挫折しました。

 

 

メタルファンのジョコウィ(ジョコ・ウィドド大統領)

 

vivanon_sentenceジョコ・ウィドド大統領はメタリカナパーム・デスのファンです。

メタリカのロバート・トゥルージロ(Robert Trujillo)からサイン入りのベースを贈られて上機嫌だったのが、贈収賄に当たる可能性があるとして国に没収されるなど(たぶん政治家から引退した時に戻ってくる)、エピソードには事欠きません。

ジョコウィという愛称とともに、ここが親しみやすさにもなっています。メタリカやナパーム・デスのTシャツを来たプライベート写真も公開していて、庶民派の話がわかる大統領を演出もしてましょうが、ホントにメタルが好きみたい。

そんな大統領がどうしてくだらない法案を出すのかってことですが、おそらく彼自身はリベラルなのだと思います。

差別に反対すると表明しており、西パプアの政治犯を釈放していますし、多文化共生を謳ってもいます。しかし、多文化共生は、誰もが他の文化を尊重することができなければ成立しない。宗教で言えば、信者外にまで自分らのルールを押しつけるのがいたら成立しない。

大統領ともなると、そういう人たちをもまとめていくしかない。理想を追求すれば潰される。

ジョコウィもムスリムではあって、巡礼にも出かけているのですが、これは政治のための対策であり、もともとは熱心に信仰していたわけではないと以前から彼を知る人から告発されていています。実際、その通りじゃないですかね。メタル信仰の方が強いでしょう。

 

 

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