論理なき社会運動の行く末をメキシコに見る—ポストコロナのプロテスト[58]-(松沢呉一)
「殺人被害者数を出しても「殺人事件が多いメキシコで、比較的女は被害に遭いにくい」という結論にしかならない—ポストコロナのプロテスト[57]」の続きです。
メキシコの殺人増加は麻薬カルテルによるもの
以下のグラフがメキシコの犯罪を理解する際の参考になりましょう。
「MEXICO MAXICO」より
これは10万人当たりの殺人被害者発生数の変化を示したものです。黒線がその数字で、2005年くらいから始まる紫の線は「組織犯罪によるものではない殺人」の数字です。紫の数字はほとんど横ばい。
2019年の数字を見ると、約3分の2が組織犯罪による殺人であり、2007年に比して2019年の数字が3倍くらいになっている原因は、ほとんどが麻薬カルテルを筆頭とした組織犯罪集団による殺人事件の増大によるものなのです。もはや武装したゲリラ軍と政府軍との内戦であり、麻薬カルテルは容赦なく民間人も殺してますから、殺害される人が増えるのは当然です。
メキシコでは、女の殺人被害者が全体の1割しかないのはここに原因があることは間違いないでしょう。正確な数字まではわからなかったですが、麻薬カルテルによる警察官や政治家、役人、民間人の殺害、カルテル同士の抗争による殺人の中に女性が含まれていて、これが女性の殺人被害者増大の中身です。
「こんなに殺される女性が増えているんです。政府は対策をとれ」というのであれば、増加分を担っている麻薬カルテルを潰すしか解決方法はない。この解消はあまりに困難であることは説明してきた通りです。
なぜDVに特化しないのか
今年はロックダウンによって犯罪件数は減っていいはずなのに、メキシコでは6月までに17,439人が殺害されていて、昨年を1.7パーセント上回っています。ロックダウンに乗じた麻薬カルテルが大活躍ですから。
殺される女性は9.2パーセントも増加しており、この増加は麻薬カルテルの影響も少しはありながら、おもにDVによる殺人の増加だと思われます。当初から「ロックダウンはDVを増加させる」と危惧されていた通りです。
DV殺人の男女比を出すのもひとつの目安ではありましょうに、なんでアバウトなことをやってんのかな。参加者は8万人もいるのですから、もっとちゃんとした数字を出している人たちはいるとは思いますが、簡単には見つからなんだ。
国際婦人デーの3月8日の段階ではロックダウンは始まっておらず、対策のとりようがない数字を掲げて8万人規模のデモと数万人によるストライキをやるくらいだったら、ロックダウン反対を掲げるべきでした。
世界中の国々が、DV増加を見込みながら、それよりウイルスの制圧を優先したのですから、見殺しにしたようなものです。自殺者もそうですが。
※2020年10月22日付「proceso」数字は出ていないですが、この記事によると、ロックダウン以降、家庭内殺人が増えている模様
文化的背景の違い?
ポーランドのフェミニストの言っていること、やっていることは十分に理解できて、批判に対しては擁護論を展開する気もありますが、メキシコのフェミニストたちの言っていること、やっていることは全然理解できない。
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