松沢呉一のビバノン・ライフ

ケニアの警察は全員がSARSみたいなもの—ポストコロナのプロテスト[65]-(松沢呉一)

文化財を破壊するプロテストは信用できない[下]—ポストコロナのプロテスト[64]」の続きです。

 

 

 

レキ虐殺から1ヶ月

 

vivanon_sentenceプロテストが好きな私ですが、ここまで見てきたように、どれもこれも支持できるわけではありません。主張は支持できても行動が支持できなかったり、主張も行動も支持できないことが少なくないのが現実。

その中でシンパシーを抱けるプロテストもあって、たとえばタイであったりナイジェリアであったり、ポーランド(LGBTフェミニストも)であったり、イスラエルであったりします。それらの国でもさまざまなタイプのプロテストがあって、あくまで支持できるのは「ビバノン」で取り上げてきたプロテストです。

とくにナイジェリアのEndSARSはリアルタイムにその推移を観ていたので、レキ虐殺とそれを契機にした略奪、放火、おそらく犯罪組織による刑務所の襲撃という展開になって、プロテストも終了したことが残念でなりません。

あれからちょうど1ヶ月になります。

以下は最近になって出ていたEndSARSの背景を説明する動画。

 

 

 

 

インターネット、タブレット、スマホなど新しいツールが若い世代に広がって、それに対する不信感が警察を突き動かしていて、そんなもんを持っているヤツらはすべて犯罪者という見方につながっていきます。警察官はたいていの場合、貧しい家庭出身で、給料が安いですから、んなもんは買えない。警察署でも買えない。車を所有してスマホを持っている若いヤツらに対する嫉妬もあるでしょう。

そんな嫉妬や鬱憤を暴行や殺人で晴らし、賄賂で小遣いを稼ぐ。

対するポストコロナ(コロナ禍は終わってないけど)のプロテストは、ロックダウンによって蓄積されたストレスや、それによってもたらされた失業や貧困に対する鬱憤晴らしの側面があるため、行動原理は論理よりも衝動になり、抗議が暴動に転換しやすいのだろうと思います。だからエチオピアのように、平時には抑えられてきた対立が表面化し、民族浄化のようなことも起き、さらには内戦につながっていきます。

ブロテストが社会を混乱させることになっても、それが変革のための力になったのであれば結果オーライとしても、現実にはどこもそううまくはいってない。EndSARSもすべてが終わった感があります。「EndSARSの曲一覧—ポストコロナのプロテスト[36]」に曲を加えるためにずっとチェックしていたのですが、ほとんど出てこなくなりました(直接的なものが減ったために探しにくくなっていだけで、EndSARSが反映されている曲はあります。それもリストに加えておきましたが、いい曲が多いです)。非暴力を呼びかけていたミュージシャンたちやコメディアンたちは意気消沈したのだろうと想像します。

再燃することを怖れて政府は、今度こそ警察の改革に着手するかもしれないのですが、今のところははっきりとはしない。ほとぼりを冷ましたら、またも警察は暴力支配を進める可能性が十分あります。政治家が改革しようとしても、ひとたび権力を得た警察はそう簡単に権力は手放さない。

 

 

ニジェールのプロテスト

 

vivanon_sentenceEndSARSの動きは他のアフリカ諸国にも影響しているのですが、どれも同じように終わってしまったように見えます。

ニジェールでもEndSARSにインスパイアされたプロテストがありました。

 

Niger Youths Protest against Bad Roads, Poor Electricity Supply, Babditry

 

こちらは反警察ではなく、貧困や電気や道路の不備をおもにテーマにしています。End BADROADS。ニジェールは貧しい国であり、道路事情が悪く、また、しばしば停電するらしいです。長閑と言えば長閑ですが、深刻と言えば深刻。

しかし、これも一回だけだったようです。

動画も出てますが、マスクをしている人は1割程度か。11月15日現在、感染者数は1,300人、死亡者70名であり、2,200万人の人口を考えると少なくて、マスク義務はなく、ロックダウンもしていないようです。長閑です。

 

 

ケニアの反警察プロテスト

 

vivanon_sentenceEndSARSは2年前からの動きで、急速に大きくなったのは今年8月から。これはやはりポストコロナの側面が大きいかと思います。ロックダウンで警察力が増大したのと、民衆側の鬱憤晴らし。

ナイジェリアでの高まりより少し前から反警察プロテストが始まっていたのがケニアです。

 

 

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