「我々を殺すのはコロナではない、警察や政府が殺すのだ」とケニアのスラムから—ポストコロナのプロテスト[66]-(松沢呉一)
「ケニアの警察は全員がSARSみたいなもの—ポストコロナのプロテスト[65]」の続きです。
ロックダウンはスラムの住民たちの生活を悪化させただけ
「南アのBLMと農場襲撃に対するプロテスト—ポストコロナのプロテスト[5]」で、ブラック・ライヴズ・マターに呼応したアフリカの国として、南ア、ケニア、ガーナをまとめた動画を取り上げました。
あの映像ではわからなかったことを補足しておきます。ケニア人の血が流れているということで、ケニアではオバマ人気が高く、対してトランプは人種差別主義者であるとして嫌われていて、ケニアがブラック・ライヴズ・マターに呼応した背景には反トランプがあり、なおかつケニアの警察に対するプロテストの意味合いもあって、ロックダウン下での警察による射殺がすでに起きていたことへの抗議です。
長いですが、以下のドキュメンタリーは非常にいい内容で、ケニアのプロテストがどう発生していったのかがよくわかります。
ナイロビ最大のスラムであるマダレ(Mathare)が舞台で、ここに50万人が住んでると言っています(スペルからすると「マサレ」「マザレ」ですが、「マダレ」にしか聞こえない)。
これを見ればロックダウンなんてしても無駄であることがよくわかります。この住環境でどうやってソーシャルディスタンスを保ち、感染を防げばいいのか。そして彼らたちこそがロックダウンの影響で職を失い、生活に困窮しました。
ベランダにいた13歳の少年が射殺された
3月30日、外出禁止時間の午後7時、マダレにあるアパートの3階のベランダにいた13歳のヤシン(Yasin)少年が腹を撃たれて死亡します。ベランダにいるのは外出ではない。仮にこれさえ禁止なのだとしても、いきなり子どもを射ち殺していいわけがない。
「コロナが我々を殺すのではない。警察が殺す、政府が殺すのだ」という言葉がスラムの人々の気持ちを雄弁に物語っています。
後半出てくるように、コロナでも死んでいます。それは納得するしかない。しかし、警察に殺されるのは納得できない。
ナイジェリアに限らず、アフリカ諸国での警察の暴力支配と腐敗は、植民地時代から引き継がれたものとされていて、支配者が入れ替わっても、ひとたび出来上がった仕組みは変わらないし、ひとたび得た権力を手放さない。
そのため、たびたびケニアではプロテストが行なわれてきて、とくにロックダウンで警察の体質が露となり、6月までに10人以上が夜間外出禁止令違反やマスク着用違反で殺されています。この中にはホームレスもいます。外出するなと言われても、外が家です。このホームレスがどういう人か不明ですが、スラムを追い出されてホームレスになった人たちもいるでしょう。
※2020年6月23日付「BBC」 撃ったとされる警察官は逮捕されており、裁判で無罪を主張していることを報じる記事。「撃った証拠を出せ」と言っているらしく、実際、片っ端から発砲しているでしょうから、誰の撃った弾が当たったかの証明は困難かもしれない。このあと警官は保釈されています。写真は殺されたヤシン君を弔う壁画。
STOP KILLER COPS
8月まで夜間外出禁止は続いたようですが、6月6日に午後9時以降の外出禁止にゆるめられていて、そこからマダレで反警察暴力のプロテストが激しくなります。
以下は7月7日で、ナイロビのど真ん中に拡大
これも同じ日か、その前後です。
連日数十という人々が逮捕されています。ソーシャルディスタンスを保てていないのが逮捕の主たる理由です。
デモ主催者によると、さらに殺された人は増えていて、ここまでに20名以上が規制違反で警察に殺害されているとのことです。
それに対する抗議であるとともに、「まともな家がどこにある?」というプラカードも見えて、「ロックダウンしたって感染するオレらの存在を無視するな」「その家まで追い立てられてどこに行けばいいんだ?」という怒りでもありましょう。
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