松沢呉一のビバノン・ライフ

比喩表現を否定するドイツの暴論—ポストコロナのプロテスト[72]-(松沢呉一)

ドイツにおける「コロナ対策をナチスに喩えること」への批判は杜撰すぎる—ポストコロナのプロテスト[71]」の続きです。

 

 

 

比喩表現として何も間違っていない

 

vivanon_sentence ゾフィー・ショルやアンネ・フランクの比喩もここまで見てきた比喩表現とまったく同じです。

カッセルのヤナさんがゾフィー・ショルと自分を重ねた時に、どこを重ねたのか、正確にはわからないですが、たとえば「世の中の大半がある方向を向いている時に、自分は別の方向を見て孤立しながらそれと闘っている」という点を重ねたのであれば間違ってはいない。

結果として処刑されましたが、ゾフィー・ショルがやったことはビラを配っただけであって、作成には関与してないですから、理解してくれる人が少ない中で理解してくれる人を求めて懸命にビラ配りをやっただけでも、その部分は重なります。

そのビラの内容など問う必要はなく、彼女の主観がそうだったことを比喩で表現しただけです。

現に大半の国民が政府の方針を支持していて、アンチ・ロックダウンの行動を支持しない国民が9割以上であるとの世論調査が出ています。

さらに妨害までされているんですから、彼女が言うように、彼女の比喩が正しかったことの証明になってしまっています。

たとえば私は中国共産党を「金をもったナチス」と表現しているわけですが、これはメタファーです。

その根拠のひとつはウイグルでの強制収容所です。法に基づくわけではない禁固は許されていいはずがないですが、中国共産党は再教育の施設だと言い張っています。これはナチスと同じ。その上、断種をしていると言われていて、これもナチスばりの優生思想であり、民族の抹消です。

死刑まで行なわれているようですが、今のところ、大量に殺害しているのではないですから、イコールではない。イコールではないことをもって、この比喩はホロコーストの矮小化であり、ホロコースト否定論とするのは不当でしょう。中国共産党がウイグル人を何百万人も殺さないとこの比喩を使ってはならないのか? あるいはウイグル人ではなく、ユダヤ人を虐殺しないと比喩として使ってはいけないのか?

※2019年6月19日付「STERN」 米民主党の下院議員アレキサンドリア・オカシオ-コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)が、移民拘留施設はナチスの強制収容所と同じと非難したことに対して、共和党や保守系メディアが猛反発したことを伝える独メディア。この場合は「まるでナチスの強制収容所だ」としたのではなく、「(ナチスの)強制収容所が現在アメリカで制度化されている」と表現しているため、比喩の域を超えているというツッコミは可能ですが、政治的スタンスによって、こういう表現を使ったり、スルーしたり、批判に利用したりってことがよくわかりましょう。

 

 

11歳の子どもの表現を吊るし上げることを狂っていると理解できないのか?

 

vivanon_sentence一般に「コロナ警察」と呼ばれる「緊急事態宣言の時に営業している店を探し出して苦情を言ったり吊るし上げるような人々」を「コロナ・ゲシュタポ」と私は呼んでました。これはナチスの矮小化か? そもそも武器を持っているわけでなく、逮捕権があるわけではない一般の人々を「コロナ警察」と呼ぶのは暴力装置たる警察の矮小化か?

どこかの製薬会社が被験者に十分な説明をしないで人体実験をやったとして、ナチスを持ち出して非難することはナチスの矮小化か? 治験データも公表せずに新型コロナのワクチン接種を進める中国はまさにこれです。

外国人労働者がパスポートを取り上げられて、タコ部屋に押し込められ、ほとんど無給で労働を強いられた時に、強制収容所と比喩するのは矮小化か?

日本の優生保護法をナチスの断種と比肩させるのは矮小化か?

ナチスや収容所に限らず、「まるで〜ようだ」という表現はイコールではなく、しばしば規模が小さいものを誰もが知っている大きいものと比べるわけですが、それらのすべては矮小化として避けなければならないのか?

これらの表現は比喩の対象が「たいしたことではない」のではなくて、「重大なことである」という意味ではないんですかね。

11歳の子どもが誕生日パーティもこそこそやらなければならない怖さを表現することを吊るし上げるようなことこそまるでゲシュタポです。これも比喩です。

※2019年11月16日付「東洋経済 ON LINE」 「まるで強制収容所」で検索するとナンボでもひっかかります。これは引きこもり支援施設に軟禁された人の話。

 

 

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