松沢呉一のビバノン・ライフ

自由であるとはどういうことか—高嶋政宏著『変態紳士』[上]-(松沢呉一)

猫町倶楽部にかこつけてマゾヒストたち』の宣伝をしようと思い、その導入として高嶋政宏著『変態紳士』を取り上げたら、語るべきことがいっぱいあって長くなり、やっと3回分を書き終えて、図版を入れようとして気づいたのですが、昨日で猫町倶楽部クリスマスフェスの受付は終わってました。最後まで書いてしまったので、ボツにするのも悔しく、参加申し込みをした人たちのために出しておきます。

 

 

 

30年前から高嶋政宏のウワサは耳にしていた

 

vivanon_sentence高嶋政宏著『変態紳士』は、出た当初に読んだ人が周りに何人かいまして、「芸能人であそこまで晒すのはすごいけど、SMのことだけではなくて、プログレや食べ物のことなど、自分の好きなことをひたすら語っている軽い本なので、高嶋政宏に興味がない限り、読むまでもない」と聞いていたので、買いませんでした。

でも、私は高嶋政宏にちょっと興味があるのです。当時は本人もSMが好きであることに気づいていなかったわけで、当然SMが好きって話は出てなかったですが、高嶋兄はロックが大好き、サブカルが大好き、アングラ指向が強いって話は私が30代の頃から幾度か聞いてました。あちらはまだ20代でしたが、高嶋兄弟としてテレビによく出ていた頃のことで、兄弟ともに爽やかな好青年イメージでしたから、意外な思いがありました。

その程度の興味はあったのですが、高嶋政宏には会ったこともなく、本を読むほどの興味でもなかったため、読まないまま、本が出てから2年が経ちました。

このことを考えていて思い出したのですが、たしか故・川勝正幸氏からも高嶋政宏のことを聞いたことがあったはずです。川勝さんは本人と会ったことがあったのか、どこかから聞いた話だったのかはわからないですが、高嶋兄は当時私や川勝さんがよく原稿を書いていたサブカル時代の「宝島」も読んでいるって話じゃなかったかな。

宅八郎の訃報にからめて、「思い出すことの多い亡くなった知人」についてFacebookに書きましたが、川勝さんも時々思い出す故人の一人です。川勝さんが好きだった本や映画や人など、何かきっかけがないと思い出さないですが、きっかけが多い人ですから。とくに冬場は火の始末をしっかりしなきゃと思う時に川勝さんのことを思い出します(川勝さんはストーブをつけっぱなしで寝て火災になった)。

余談でした。

 

 

2年遅れで読んだ高嶋政宏著『変態紳士』

 

vivanon_sentenceもうじき猫町倶楽部のクリスマスフェスです。私がゲストで話すわけではないので、そんなにプッシュする必要もないのですが、『マゾヒストたち』を売る機会はこの先もうないでしょう。採算ラインは超えているはずですが、増刷はされておらず、在庫が余っていそうですので、最後の一押しで1冊でも2冊でも売れるものなら売っておきたい。

なんかもう一発書いておこうと思ったのですが、あの本に関して、この上とくに書きたいこともない。

あ、そうだ、『変態紳士』を読んで、「この本より『マゾヒストたち』の方が数段オモロいで。値段も安いし」と誘導するか、とひらめきました。

つうか、ちょっとの興味はあって、ちょっとは読みたくもあったので、これをきっかけに読んでみました。

たしかに典型的なタレント本の作りで、インタビューをして、おそらくそんなに加筆もせずにまとめたものです。文字も詰まってなくて、本文200ページなので、すぐ読めます。脚注もなくて、本の作り方としては極まりなく安直です。

知名度のある俳優であることによって成立している本であることは間違いなく、これが無名の人が書いた本だったら、「なんだ、この杜撰な本は」と酷評したかもしれない。

SMについては、11章のうちの1章と2章だけで、全体の6分の1程度しかありません(自身の性体験やフェチについては別の章になってます)。その2章も演劇などの話とからめていますから、マニアの本としてもSMの入門書としても全然食い足りない。聞いていた通りです。

話し言葉そのままの軽い軽い文体で、SMに文学的耽美を求める人は怒り出しそうです。文章に笑いを入れたがる私もよく怒られてますが、私の文章よりもっと軽快で即物的な文章である上にグルメや健康の話と並列に語ってます。

この本より『マゾヒストたち』の方が数段オモロいで。値段も安いし。

と予定通りのことをまず書いておいて、本題です。

この本には大いに共感しました。これは「人が自由になっていく軌跡を書いたもの」として普遍性のある内容です。

 

 

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