松沢呉一のビバノン・ライフ

2020年・民主主義はどれだけ後退したか?—パンデミックの年を振り返る[1]-(松沢呉一)

ポストコロナのプロテスト」のまとめみたいなものですが、それ以外の要素もあるので、タイトルは別にし、カテゴリーは「ポストコロナのプロテスト」に入れておきます。

 

 

 

民主主義は14年にわたって後退

 

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ポストコロナのプロテスト」は自分自身のために来年も続けます。どうしても整理しておきたい国はそんなに残っていないので、あと数回だと思いますが、次から次とプロテストが起きているので、どうなることやら。

今年も終わりなので、この辺でここまで見えてきたことを踏まえて軽い総括みたいなものをやっておこうかと思って、参考のためにいろんなものを読んでます。

重要なキーワードは「民主主義の後退」です。何年か前から、「民主主義が後退し、権威主義が伸してきている」という指摘がなされています。これにパンデミックはどう作用したのか。

政治学では民主主義の対語として権威主義(authoritarianism)という言葉を使い、「権威主義体制」は独裁体制や全体主義を含めた非民主主義的政治体制のことです。たとえば中国や北朝鮮がその筆頭であり、国民による選挙で為政者が選ばれない政治制度は典型的権威主義国家。

しかし、一般に権威主義という言葉は「権威に服従したがる個人のありよう」を示すことが多く、「彼は権威主義者だ」という時は「自ら権威を求める」「力のある者に従う」「肩書きや地位で人を判断する」といった性向を指しましょう。私もこの言葉を使う時は100パーセントこちらであり、政治体制を指す言葉として権威主義という言葉はしっくり来ないのですが、用語が複数になるのは好ましくないので、ここでは権威主義を使用します。

「民主主義は後退し続けていて、権威主義が台頭してきており、それがパンデミックで加速した」というのが大方の見方でしょう。私もそう思っています。

※フリーダム・ハウスの「Freedom in the World 2019」 2019と入ってますが、これは発表年で、内容は2018年です。

 

 

2005年以降、民主主義は後退し続けている

 

vivanon_sentence「世界各国がどういう状態にあるのか」については米国のNGOフリーダム・ハウス(Freedom House)が、1950年代から自由度を数値化して毎年「Freedom in the World」を出しています。

2020年度版が出るのは来年2月ですが、本年2月に発表された2019年度版では「14年にわたって民主主義は後退し続けている」と指摘しています(この後退は「民主度のポイントが上昇した国より下降した国が多い」という意味だと思われて、民主主義国家より権威主義国家の方が増えているという意味に非ず)。

 

2019年度版 写真は香港

 

このページは簡略版で、フルレポートはこちら(PDF)。

暗澹たる気持ちになります。

フリーダム・ハウスについては以前も取り上げていて、ナチスに対抗して作られた団体なので、人種差別や難民について重きを置いているのですが、どういう基準で数値化しようとも似た結論になるだろうと想像できます。

ソビエト崩壊によって東ヨーロッパやアフリカ、アジアでソビエトの影響が落ち、1990年以降、民主主義が拡大する傾向にあったのが、2005年から逆転が始まりました。

この逆転には、いくつかの要因がありますが、民主主義を採用していない新興国の経済発展と関わっていると指摘されています。中国がその筆頭です。

世界の民主化は、民主主義国家の経済に支えられていたところがあって、その構図が崩れつつあります。以前説明したように、経済的援助や融資をどこの国が担うかで発展途上国が権威主義になるか民主主義になるのかが大きく左右されます。

かつてはソビエトが力を持ち、それに代わって今は中国。経済力をもった中国の権威主義体制が官民一体となってこれを強引に進めており、しばしば贈賄によってそれを実現させていると見られています(「ネパールのオリ首相が中国から裏金をもらったとの疑惑—ポストコロナのプロテスト[68]」)。

言うまでもなく、中国は国内的にも少数民族の弾圧、少数意見の弾圧を強めていることも指摘されていて、その筆頭はウイグルです。フリーダムハウスが指定した、民族浄化を進める11の国のひとつが中国です(2005年には3カ国だった)。それを世界に拡大しようとしている。

 

 

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