シラクサ原則(the Siracusa Principles)に照らす—パンデミックの年を振り返る[4]-(松沢呉一)
「世界中でロックダウンが自由ポイントを大幅に下げたはず—パンデミックの年を振り返る[3]」の続きです。
民主主義国家内の民主主義の後退が進んでいる
中国は最初から権威主義の典型的な国として平常運転ですが、問題は民主主義国家においても、国民がウイルス恐怖のために権威主義へ傾斜し、少なからぬ国民が権威主義的対策を求めてしまったってことです。政府よりも先に国民がそちらに流れて政府に権威主義的対策を求めたと言える例の方が多いかもしれない。
この日本でも、民主主義を支持しているはずの人々が、理由があれば簡単に放棄するってことを自ら告白するように中国の対策を手本にしたがりました。「中国のやり方を真似しろ」とまでは言わないとしても(これに近いことを言っている人はいましたが)、強い国家の強い政策、手続きを飛ばした迅速な対応を求めた人は少なくないことはさまざまな人が指摘している通りです。
多くの国で多くの国民がそちらに向ったことを利用して、権力者のウイルス利用も散見できました。
反政府のプロテストの高まりをウイルス対策を名目として潰す。失敗に終わって数日で撤回しましたが、タイでも集会禁止をやりましたし(「タイの反政府・反国王プロテストとスリーフィンガーズ・サルート—ポストコロナのプロテスト[10]」)、イスラエル(「イスラエル建国以来最大規模の反政府運動—ポストコロナのプロテスト[21]」)やレバノン(「「それほどのもんか?」と疑問を投げかけるスタンフォード大学の研究者たち—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[32]」)もそうです。集会の解散命令や逮捕の名目になった例は枚挙にいとまがない。
ハンガリーでもパンデミックの中で権力集中が進んでいます(「ハンガリーに見る全体主義・民族主義の高まりとウイルス利用—ナチスの時代とコロナの時代[5]」)。
また、マスクを反対派潰しに利用した国もあります(「カメルーンではマスク着用の義務化で反政府派潰し—マスク・ファシズム[5]」)。
※2020年8月24日付「CREATIVE ASSOCIATES INTRNATIONAL」
ウイルスを口実にした権威主義的施策
この辺までは「ビバノンライフ」で拾ってましたが、2020年8月24日付「CREATIVE ASSOCIATES INTRNATIONAL」掲載「DICTATORS GOING VIRAL: AUTHORITARIANISM AND COVID-19」は、権威主義が進み、独裁者が活気づいている様子をまとめており、これによると、アルジェリアやロシアでも集会やデモが完全禁止にされたそうです(ロシアでは大規模な反プーチン集会をやってましたが、あれは違法だったのか。あるいはそれを潰すために禁止にしたのか。時間があったら調べておきます)。
メディア規制も進み、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相とフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、パンデミックに関するジャーナリズムの報道を規制し、ヨルダン、イエメン、オマーン、イラン、モロッコは新聞自体を禁止。流言飛語を防ぐという名目だろうと思います。
7月15日の時点で、62の国と8つの地域で選挙が延期されています。そのすべてが権力者の都合ってわけではないでしょうが、少なくとも延期期間は権力の座にあり続け、国民の選択ができないわけですから、本来はいいことではない。
「民主度の低い国々ではそうかもしれないが、民主度の高い国ではそこまでのことはなかったんだからいいではないか」という意見もありそうです。ホントにそうか?
※「CREATIVE ASSOCIATES INTRNATIONAL」の記事の元ネタはLondon School of Economicsによる調査がのようですが、LSEのサイトでは見つかりませんでした。LSEはロンドン大学の社会科学部門で、経済学がとくに強いのですが、国際関係や紛争についての研究についても世界のトップクラス。目的は果たせませんでしたが、サイトには読むものがいっぱいあります。
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