松沢呉一のビバノン・ライフ

とくにアフリカ大陸で民主主義の後退は避けられない—パンデミックの年を振り返る[2]-(松沢呉一)

2020年・民主主義はどれだけ後退したか?—パンデミックの年を振り返る[1]」の続きです。

 

 

 

民主化が進んでいた国も逆行

 

vivanon_sentence今回は「今まで書いてきたことのその後」という内容です。書きっぱなしだったことが気になっていたので。

全体として民主主義が後退する中で、数は少ないですが、2018年版「Freedom in the World」で民主化方向に舵きりをした国がいくつか挙げられています。そのひとつがエチオピアです。

2018年、アビィ・アハメドが首相に就任して、エリトリアとの和平協定を実現し、政治犯を釈放するなど民主化に踏み出し、そのバックアップの意味を込めてノーベル賞委員会は平和賞を授与したわけですが、本年は大幅に後退しています。2020度版の「Freedom in the World」でもその後退ぶりを取り上げられるでしょう。

コロナ禍の中でオロモ民族を代表する歌手ハチャル・フンデッサが殺され、それを契機にアムハラとオロモの民族対立と、オロモ内の対立が激化(「エチオピアのハチャル・フンデッサ射殺事件—ポストコロナのプロテスト[48]」「オロモの歌手殺害を契機に数百名が死亡—ポストコロナのプロテスト[49]」「ハチャル・フンデッサを殺害したのは誰か—ポストコロナのプロテスト[50]」「エチオピアは今も戦争気分—ポストコロナのプロテスト[51]」「ハチャル・フンデッサを殺害したのはオロモ解放軍内アバー・トビー?—ポストコロナのプロテスト[52]」)。

北部では政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)との内戦が勃発。直接のきっかけはTPLFが政府軍の基地を襲撃したことにあるようですが、アビィ・アハメドはその前に新型コロナを理由に選挙を延期していて、TPLFは「選挙に勝てないから延期した」と主張して、独自の選挙を実施しようとしていました。もともと同じ政権内でうまくやっていたはずなのに、今は全面対決。

政府軍進行とともに電気も通信もティグレ州では遮断されました。政府軍がやったと言われていたのですが、政府はTPLFがやったと言ってます。あらゆる点で意見が食い違っていて、こういう時こそメディアの役割が大きいのですが、ジャーナリストも拘束され、何が起きているのかまったくわからない状態が一ヶ月以上続いてました。

多数のティグレ人がスーダンに脱出していて、政府軍は無差別に殺していると言っていますけど、これもティグレ側の見方ですから、鵜呑みにはできないとしても、すべて遮断されているため、食糧が底をついているはずで、餓死者も出ているのではなかろうか。

どちらに非があれ、どちらに正義があれ、エチオピアにおいて民主化は大きく後退しました。

※2020年12月23日付「africanews」 最新のこの記事では、TPLFの声明を紹介しています。政府軍は州都メケレ(Mekelle)をすぐさま制圧したと発表し、アビィ・アハメド首相も現地入りしていて、戦闘の終了を宣言したのですが、TPLFは自ら撤退したのであって、戦闘はなお続いていると言ってます。戦闘が続いていることについては間違いなさそう。

 

 

エチオピアと中国とサバクトビバッタ

 

vivanon_sentenceただでさえ、エチオピアはバッタや洪水による食糧不足が本格化してきていて、内戦以前から餓死者が出ると言われていました。

サバクトビバッタは、ひとたび沈静化しても、大量発生した時に卵を産みつけているため、そこから生まれた世代が現在また大量発生して猛威を奮っていて、FAO(国連食糧農業機関)は被害はここ四半世紀で最悪だとしています。

サバクトビバッタ大発生は周期的なものに加えてウイルス対策によるところも大きい。今後は各地で食糧確保の紛争も起きそうですし、不安定な状態が続いているこの地域では、エリトリアやソマリアとの紛争が再燃するのではないかとも見られています。

WHOと中国の密な関係は、テドロス・アダノム事務局長によると見なされているように、エチオピアは中国との関係が強くて、「アフリカの中国」とさえ言われ、中国はエチオピアを足がかりに近隣諸国への進出をしてきたため、今回の内戦が長引くと、着手している公共事業は頓挫し、金も入ってこなくなり、周辺諸国への進出も難しくなります。

中国が撤退するなら、それ自体は民主主義にとってはいいことだとしても、エチオピアは中国依存が強く、経済の悪化は免れない。また、中国産のワクチンを使うアフリカ最初の国とも言われていましたから、この時期は何がどう影響するのか予測がつかない。

※FAOが公開しているサバクトビバッタ発生マップの最新版(12月13日〜19日) エチオピアとソマリアの被害が大きい

 

 

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