松沢呉一のビバノン・ライフ

フリーダム・ハウスの評価でスウェーデンは100点満点、では日本は?—パンデミックの年を振り返る[6]-(松沢呉一)

プロテストもメディアも重要、その上での問題点—パンデミックの年を振り返る[5]」の続きです。

 

 

スウェーデンに対する報道のバイアス

 

vivanon_sentenceスウェーデンに対する国外の報道もひどいものが目につきました。

スウェーデン方式が存在すると、シラクサ原則の第三項と第四項制限は当該目的を達成するうえで厳密に必要とされるものでなければならない同一の目的を達成するような,より侵入や制限の度合の低い代替手段が利用不可能でなければならない」に反してロックダウン等の厳しい対策をとってしまったことになりますから、代替手段は失敗してもらわなければならないってことだとしか思えない。

スウェーデン政府は一度も集団免疫を目的にしていると言っていないにもかかわらず、スウェーデンの集団免疫作戦は成功しないだの、失敗しただのと書き立ててきました。集団免疫が機能し始めたかもしれないことを示唆していたことはあって(「スウェーデンは集団免疫を獲得したのか?—T細胞による細胞性免疫[上]」、その後の数値からして間違いだったとしか思えないですが、こんな読み間違いは各国がやっていることでしかない。

スウェーデンに学ぶべき点は無視し、スウェーデン方式が失敗したように見なせることについて大きく報道する傾向は今も続いています。

 

 

2020年12月18日「AFP BBニュース

 

 

カール16世グスタフ(Carl XVI Gustaf)国王が、スウェーデンで多くの死者が出ている点につき、「われわれは失敗したと思う」とテレビで発言したという報道。

第一波での死亡者が多かったことの失敗は政府が早い段階で認めていた通り。その反省に基づいて、介護対策を徹底したため、第二波の感染者増加にともなっては死亡者は増えてません。それでも第二波は第一波の感染者数を超えてますから、そこは失敗だし、ともあれ、死者も増えてはいるので失敗かもしれないけれど、数字の単純評価は「中国は素晴らしい」になりかねない。

成否の判断は、死亡者数、経済の停滞、失業者や自殺者の増加、民主主義の後退などを含めて判断すべきことです。

そもそも国王が詳細も説明しないまま、チラッと口走ったことをよその国のメディアがこうも大きく取り上げることですかね。私も大きく取り上げてみました。

 

 

民主主義・自由を忘れた人々のスウェーデン評価

 

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これに続いて、スウェーデンが方向転換したという記事も多数出ています。これは初期から続いていたことで、どんだけ方向転換しているんかと。もはやこれはメディア側の願望です。

今回の根拠はマスクの推奨をしたのと、デンマークの人たちが自国の規制を嫌ってスウェーデンまで息抜きに来ることを防ぐため、初めてデンマークからの入国を禁止したのと、午後8時以降の酒類の販売を禁止し、店舗や飲食店の入場制限をしたことです。

第二波の対策を次々にやっているので、たしかに今までよりは大きな変化かもしれないけれど、「ついにあのスウェーデンがマスクを推奨したぞ」って、マスクを義務化している国の人たちが嬉しそうに騒ぐのはどうなんか。

マスクに限定的効果があることについては公衆衛生局のサイトに早くから出ていた通りであり(「現実には臨機応変にマスクをしている—北欧諸国がマスクに積極的ではない理由[下]」)、マスクがもたらす安心感に頼らないように、義務化はしないと言っていたわけですが、それがやっと推奨に至っただけで、なお義務化はしてません。

 

2020年12月23日「AFP BBニュース

 

 

このAFPの記事はフラットで、ステファン・ロベーン(Stefan Lofven)首相の「従来の方針を維持する」というコメントを掲載し、タイトルでも方向転換ではないことがわかるようにしていますが、米メディアはひどいのが多い。

これはトランプ支持者が多い米国の規制反対派はスウェーデン方式を崇める傾向が強かったことの反発でしょう。リベラルと自認するメディアは当然反トランプですから、規制反対派に批判的。でも、こういうバイアスが判断力を落とすと思うのですよ。

 

 

フリーダム・ハウスによるスウェーデン評価は満点

 

vivanon_sentenceスウェーデンが仮に失敗したのだとしたって、スウェーデンのやり方は民主主義を維持するために考えられていて、そこで奮闘するのは間違っていない。

以下がフリーダム・ハウスによるスウェーデンの評価

 

 

 

 

 

満点。2020年もほとんど数字は落ちないでしょう。

 

 

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