松沢呉一のビバノン・ライフ

ベラルーシのプロテスターたちのマスク率を確認する—ポストコロナのプロテスト[77]-(松沢呉一)

ポストコロナのプロテスト」としては「チリの憲兵隊カラビネーロスとカトリックの関係—ポストコロナのプロテスト[76]」の続きですが、内容は「中国は失敗したと言えるのか?—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[5]」を受けたものです。

 

 

 

ベラルーシの反独裁プロテストの主たる理由はルカシェンコのコロナ対策だったという説を検証する

 

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「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する」で仔細に見たニューズウィークの記事が、民主主義が後退していないことの根拠としてもっとも強調していたのはベラルーシです。

 

 

新型コロナ時代の民主主義の現在形を示す最も明確で劇的な例は、ベラルーシだろう。長年、独裁体制を敷くルカシェンコ大統領が8月の大統領選で、不正疑惑のなか「勝利」してから、同国では大規模な抗議運動が続く。だが反政権デモの主な要因は、ルカシェンコが新型コロナ対策を頑固に拒否し、それによるダメージを嘲笑的な態度で否定したことにある。

 

 

ベラルーシについては日本でも詳しく報じられているため、私の出番ではなく、しばしばチェックしながらも、「ポストコロナのプロテスト」では取り上げてきませんでした。

ベラルーシのプロテストは間違いなく民主化運動ですけど、この文章にある「反政権デモの主な要因は、ルカシェンコが新型コロナ対策を頑固に拒否し、それによるダメージを嘲笑的な態度で否定したことにある」という見方は「完全な間違い」とまでは言えずとも、ほぼ間違い。ウイルス対策は比較的小さな要因のひとつでしかありません。

たしかにプロテストの中に「新型コロナ対策をしっかりやれ」という声はあったと私も記憶しますが、ごくわずかであって、それが主たる要因とはとうてい思えない。

この記事に添えられたベラルーシのプロテスト写真では、半数以上がマスクをしていて、あたかもプロテスターたちはウイルスを警戒しているような印象になっています。

改めて見ておきましょう。

 

 

ミンスク(Мінск)とありますが、おそらくこの写真は11月以降のものです。そう判断できるのはマスク率です。

以下マスク率に注意しながら、ここまでのベラルーシのプロテストをおさらいしましょう。

 

 

ベラルーシの反独裁プロテスト

 

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ベラルーシのプロテストが始まるきっかけは8月の大統領選挙です。1991年ソ連崩壊にともなってベラルーシ共和国として独立し、独立後初の1994年の大統領選挙でアレキサンドル・ルカシェンコ(АляксандрРыгоравічЛукашэнка)が大統領に就任。以降、独裁を続けてきました。

形だけでも選挙をやっているので中国や北朝鮮よりはマシですが、不正選挙をやっていると言われ続け、EU諸国からの批判も受けてきました。

今回、第6期目となる大統領選挙では、出馬を表明したブロガーであり、YouTuberであるセルゲイ・チハノフスキー(Сяргей Леанідавіч Ціханоўскі)はその発表の2日後に逮捕されます。でっち上げと思われ、かつ微罪です。彼はもともとよく知られるブロガーだったわけではないようですが、5月から反ルカシェンコの動画を出し続けて支持を得ていました。

注:日本語表記は「ツィハノフスキー」「ティハノフスキー」「チハノフスキー」の三種あります。ベラルーシ語では「Цi」なので、「ツィハノフスキー」が近いのですが、ロシア語では「Ти」なので、「ティハノフスキー」が近い。ベラルーシではベラルーシ語とロシア語の併用であり、そのふたつの言語で発音が違うのかも(んなことあるのかなとの疑問もありつつ)。英語では「Ti」です。「ツィ」は日本語としては馴染みが薄いため、「チ」にしているメディアが多いのだと思われます。ここでもわかりやすい「チ」で統一します。妻は女性姓になって、この場合も「チハノウスカヤ」で統一。

 

 

刑務所の壁を壊せ

 

vivanon_sentenceチハノフスキーの逮捕に対してアムネスティ等の人権団体が抗議し、国内でも抗議行動が行なわれます。

 

 

 

 

フランコ政権下のカタロニアで歌われた曲をもので、セルゲイ・チハノフスキーがベラルーシ語で歌っています。「Разбуры турмы муры(刑務所の壁を壊せ)」という曲名。

マスクをしている人たちがチラホラいる映像とそうではない映像が混在しています。初期は人数が少なかったために、身許がバレることを怖れてマスクをしたとの話もあって、予防なのか覆面なのかどちらかはっきりしません。反政府デモをするだけで捕まりかねない国ですから。

つねにそうだとは言えないまでも、国旗を掲げるプロテストはナショナリストが多いものですが、彼らが掲げているのは現在の国旗ではありません。

現在の国旗はこれ。

 

 

 

ルカシェンコ支持派はこちらを持つ。

以下が反独裁プロテスターたちが持っている旗です。

 

 

枠がないと赤い横線だけに見えますが、上下は白です。

こちらは1991年から1995年までの国旗。ソビエトから独立して、独裁体制が出来上がるまでの国旗であり、いわば民主旗であり、反独裁旗なのです。

 

 

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