松沢呉一のビバノン・ライフ

ドイツ赤軍に憧れるネオナチ—インゴ・ハッセルバッハ著『ネオナチ—若き極右リーダーの告白』[3]-(松沢呉一)

ネオナチ各派とルドルフ・ヘス(Rudolf Heß)—インゴ・ハッセルバッハ著『ネオナチ—若き極右リーダーの告白』[2]」の続きです。

 

 

 

ネオナチの矛盾

 

vivanon_sentenceシュトラッサーやレームを支持するネオナチ、ルドルフ・ヘスを英雄視するネオナチ、「ホロコーストはなかった」論を信じようとするネオナチに共通するのは、一般に批判されるナチスの悪業を回避しているってことです。「ナチスがホロコーストのような残酷なことをするわけがない」と信じたい。彼らもまたホロコーストはあってはならないという価値観を持っていることがわかります。

ヒムラー支持者も、なんらかの合理化でホロコーストを回避しているのか、あるいは「ユダヤは抹殺してしかるべき」と考えるのか、どちらかわからないですが、ホロコーストをそのまま肯定するのはネオナチの中でもおそらく少ない。

ヒトラー支持者の中にも、「ヒトラーがホロコーストを命じたわけではない」と主張するのもいるはずです。事実、命じた記録はないので。

そのくせ、今現在の移民を排除し、焼き討ちや殺害を肯定するのがおかしなところで、この辺の破綻は翻訳者(野村志乃婦)も訳者まえがきでツッコミを入れています。ホロコーストについては突き詰めた結果ではなく、とりあえず批判されるから逃げ場を作っているに過ぎないのかもしれないけれど。

また、ネオナチにはイラクと反シオニズムで連携をしたグループもいるそうです。反シオニズムでは手を組みつつ、国内のムスリムは攻撃するのも矛盾に見えますが、その場その場の利害で敵対したり、手を組んだりするのはどこでもよくあることか。

※2017年7月30日付「DW」 テューリンゲンでネオナチのコンサートが行なわれたって記事。テューリンゲン州は旧東ドイツのネオナチ拠点です。インゴ・ハッセルバッハ著『ネオナチ—若き極右リーダーの告白』に登場するネオナチはイメージ通りのネオナチで、支持する対象はバラバラでも、ナチスにシンパシーを抱き、「ハイル・ヒトラー」とやるようなのもいて、スキンヘッズの乱暴者集団。でも、この記事を見ても、主眼はおそらくイスラムに対する排外主義で、「ナチスはどうでもいい排外主義者」もいそうに思います。反中国極右もたぶん出てきているでしょう。そっちに持って行かれないようにリベラル派の反中国共産党の動きをはっきり打ち出した方がいいと思う。

 

 

アウトノーメとの闘いの日々

 

vivanon_sentenceなぜインゴ・ハッセルバッハがネオナチに向ったのかを簡単な言葉で言えば「家庭で得られなかった愛情を得られる仲間が欲しかった」ということと、「社会をぶち壊したかった」ということになりましょう。

社会をぶち壊すのは面倒なので、社会から離脱するのがヒッピー。音楽で社会をぶち壊すのがパンク。独裁で社会をぶち壊すのがネオナチ。

どこを選ぶかはその特性との相性次第であるとともに、少年院や刑務所内の接点を含めた人間関係に左右されます。東ドイツでは左派は体制側になってしまうので、そちらには向わないとして、西ドイツで育っていたら、また違う選択があったでしょう。

結局のところ居場所があればいい、仲間がいればいいってことであって、だいたいなんでもそんなもんです。日本でも、法政大に入れば中核派に入り、早稲田大に入れば革マルに入り、明治大に入れば解放派に入り、生協に入れば民青に入り、体育会に入れば右翼に入るって時代があったわけです。

東西統一以降、著者たちの眼前の敵はアウトノーメ(Autonome)です。本書では当然ドイツ語になってますが、日本ではイタリア語の「アウトノミア」とするのが一般的でしょうし、もっと一般的にはアンティファに代表される思想や運動です。日本語で言えば自律運動

アンティファシズムの運動は1900年代初頭がルーツだと思いますが、ドイツではもっぱら共産党が担ってました。現在のアンティファはアナキズムの影響が強く、ロシア的、中国的全体主義にも反対の人たちが圧倒的に多いはず。

ヒッピー系、パンク系はアウトノミアに流れやすいと思いますが、ドイツではネオナチ・バンドやネオナチ・フォークも強いらしい(音楽について誤植をひとつ見つけましたが、英語→ドイツ語→日本語を経たためかとも思われ、どうでもいいっちゃどうでもいいので、スルー)。ナチスの時代だったら真っ先に消される退廃音楽をやっているくせに。

 

 

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