松沢呉一のビバノン・ライフ

路上で待つ女—新大久保のとある一夜[下]-[ビバノン循環湯 579]-(松沢呉一)

部屋で待つ女—新大久保のとある一夜[上]」の続きです。

 

 

外国人娼婦ネットワーク計画

 

vivanon_sentence店を出て、新宿駅に向かうため、ホテル街を歩く。

以前はコロンビア系が多かったのだが、今はコロンビア人は見かけず、ロシア人と思われる街娼がいくらか残っているだけだ。ロシア人ではなく、東ヨーロッパのどっかの国だったりするようだが、あの辺の国々のことはよくわからんので、私にとっては全部ロシア人。

ロシア人が次々と声をかけてきたが、無視して歩き続ける。取材対象として街娼は思い切り興味があるが、外国人では会話がうまくできないので、細かな話を聞けず、取材にならないため、いつもこの近辺は素通りだ。

アジア人が立っている一角に来たら、日本人みたいなのがいる。この界隈で日本人を見かけることはなく、たいていは中国人か韓国人かタイ人だ。しかも若い。20代だろう。もし日本人だったら今世紀最大の発見である。

声をかけてみた。

「どこから来たの?」

「タイだよ。遊んでく?」

今世紀最大の発見を逃した上に、たった今、マンコをなめてきたところなので、ちいともやりたい気分ではなかったのだが、人懐っこいコで、日本語もけっこう通じる。ちょっと話していくかと思うや否や、「行こうよ、行こうよ」と腕をとられた。

久々に海外ネットワーク計画を進めようかと思い立ち、ホテルに入った。

私は自らのチンコを使って外国人娼婦と仲良くなり、日本に来ている各国の人たちのネットワークを作りたいと本気で考え、そのためには戸籍を使うことも厭わないつもりだった。

同じ新大久保でも、国によってエリアが違って、横のつながりはほとんどない。むしろ、なわばりを侵しかねないライバルである。同じ場所では難しくても、別エリア、別業種だったら国を超えて助け合ったりできるのではないかと夢想していたのだ。

最初に目をつけた台湾人は、美人だし、相性もよかったのだが、客の私に「最近どうして来てくれないの」「他で遊んでいたんでしょ」とプリプリプリプリ怒ってばかりいるために、計画はあっけなく挫折したのであった。そういう性格は嫌いではないのだけれど、なにしろ戸籍まで使う覚悟である。一緒に暮らすのは厳しそうだ。

※かつてはこの辺がもっとも街娼の多かったエリアです。この話に出てくるタイ人もこの近くにいまました。

 

 

日本に来て三ヶ月のタイ人街娼の話

 

vivanon_sentence今回は失敗しないように、まずは相手の性格を見極める必要がある。また、信頼してもらうためには時間がかかるだろうと思って、安ホテルに入ってすぐに代金を払い、「外は寒かったから、ちょっと温まろう」と茶を飲みながら、ゆっくり話をすることにした。そうしないと、早く終わらせるために、彼女らはすぐに脱いでしまうのだ。

彼女は日本に来て三カ月。渡航費用や滞在費などで四百万円の借金をしているそうだ。これは相場より高い。悪どいブローカーにつかまったのか、渡航よりも前に彼女が作った借金が含まれているのかもしれない。それにしても高いけれど。

日本に来た十二月は警察の見回りが厳しくて商売にならず、今は暇でやっぱり商売にならず、まだ百万しか返済していない。

いつ捕まって強制送還されるかもわからず、そうなれば借金だけが残る彼女の境遇にどうしたって同情的になる。

しかし、私のその感情に反発するように、彼女は「もう百万円だよ」と嬉しそうに言う。このまま稼げない時期が続いたところで、彼女の感覚としては三ヶ月で生活費を別にして百万円を返済できるほどに稼げたってことになるようだ。

このペースなら、九カ月で全額返済して、あとは貯金だ。

「寒いうちは客が少ないけど、暖かくなるともっと稼げるよ」

「そうなんだ。家を建てるのが目標だよ」

彼女はタイの田舎に住んでいて、バンコクについてはほとんど知らず、私の方が詳しいくらい。

「さっき近くにいたのもみんなタイ人?」

「そうだよ。あの人たちと一緒に住んでいるよ」

「もともと知り合い?」

「いや、日本で知り合った。いい人たちだよ」

まとめて仲良くなるか。

※オープン記念で、サイコロを振って1が出ると無料ですぜ。無料にならなくても安いので、一人で入ろうかと思いました。

 

 

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