松沢呉一のビバノン・ライフ

新年早々自殺の話—2021年の抱負(なんて立派なものはもうないけれど)[3]-(松沢呉一)

新年早々またマスクの話—2021年の抱負(なんて立派なものはもうないけれど)[2]」の続きです。

 

 

 

感応の街

 

vivanon_sentence私は図太い方だと思ってますが、昨春、コロナで閑散とした街を見た時は涙が出そうになりました。繊細にできている人たちは閑散とした風景を見ているだけで鬱にもなりましょうよ。

それで自殺するくらいだったら、今は人がいっぱいいる街に出た方がいいです。その際に、自分で納得できる防護をする、それがイヤなら感染した時に自宅で自己隔離する覚悟をすべきことは前々回書いた通りです。

在宅勤務で性風俗を利用する人たち・在宅勤務で壊れる人たち—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[15]」「BiSHの無観客ライブで泣けてきた—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[16]」「感応が奪われた時に人々がとる行動—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[17]」「大きな声では言いにくい出張ホスト事情—コロナの時代に流行るもの・廃るもの[18]」で、ほとんどの人は人と触れ合うことを必須として生きていて、その点で水商売や性風俗はいかに重要な意味のある仕事かを説明しました。

直接体に触れること、会話をすることだけじゃなく、音楽、映像、芝居、スポーツ、祭り、デモも同様で、その場に居合わせることに大きな意味があります。

これを想田和弘監督は「感応」という言葉で言い表していて、私は買物客であっても多数の人が居合わせていることに「感応」があると書きました。そのことを年末の雑踏で強く感じました。

昨年はこの感応の場がごっそり消えました。各種イベントがなくなり、飲み屋や性風俗が休業に追い込まれ、一部は潰れました。

経済的な事情だけじゃなく、鬱が増えたり、自殺が増えたりしているのは、感応が奪われたことも大きいのではなかろうか。

芸能人の自殺が相次いでます。はっきりとした理由はわからないですけど、仕事が激減して収入が減っただけでなく、芸能人たちにとって必要な感応の場が消えたことも大なり小なり関わっているのかもしれない。あくまで可能性でしかないですけど。

※首を吊っているところや電車に飛び込むところの写真は撮れてないので、引続き年末風景の写真です。この写真は御徒町寄りのアメ横入口

 

 

セックスワーカーと自殺の関係?

 

vivanon_sentence人を介してですが、年末に、あるテレビ番組のスタッフから、「コロナの影響によるセックスワーカーと自殺の関係について聞きたい」という話がありました。

間接的に聞いただけですから、その番組の趣旨は正確にはわからないですが、ざっと以下のようなものだろうと想像しました。

「コロナ禍で若い女性の自殺が増えている。パンデミックの影響は、非正規雇用が多い若い女性に皺寄せが来ている。解雇された女性たちは性風俗で働いてでも食べていくしかない。自分のやりたい仕事ができなくなって、好きでもない仕事をすることのストレスで自殺するのが増えている。この社会はなんと女性にとって過酷な社会なのか」

みたいなことを考えてんじゃなかろうか。こんなシナリオじゃないと、テレビが「セックスワーカーと自殺の関係」を知りたがることはないでしょう。

ここまでベタじゃないにしても、おそらく若い世代の女性の自殺が増えていることから安直に導き出した企画です。

しかし、前年比の増加率が男より女の方が大きいだけで、自殺の絶対数で言えば男の方が相変わらず圧倒的に多いのが現実。

以下は警察庁のサイトより。

 

 

11月。

 

上が合計、真ん中が男、下が女。男が約65パーセント、女は約35パーセント。

 

 

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