松沢呉一のビバノン・ライフ

新年早々自殺の話はいつまで続く—2021年の抱負(なんて立派なものはもうないけれど)[5]-(松沢呉一)

新年早々自殺の話が続く—2021年の抱負(なんて立派なものはもうないけれど)[4]」の続きです。

 

 

「セックスワーカーの自殺」はデータがとれない

 

vivanon_sentenceセックスワーカーに、パンデミックによる自殺が多いのか少ないのか、わかるはずがない。そんな調査はどこもやっておらず、警察だってそんなデータは持っていない。

警察の仕事は「死因は何か」「自殺か他殺か事故死か」であり、それを確定させる「遺書はあるか」であって、他殺の可能性がない限り、その人物の収入源を調べることはない。

警察以外の誰がこんなことを調べられるかって話でもあって、ビルから飛び降りて、通行人に激突したような事故がない限り、自殺者個人を特定できるような情報を警察は提供してくれないのではなかろうか。

報道されるのも、そういった第三者への影響があった自殺(電車の遅延を含めて)だけであり、それを見たって詳細はわからない。

仮に私が調べようとすると、性風俗店に取材して、得た情報の裏取りをしていくことくらい。それを10例集めたところで、全体像なんてわからんです。

テレビだったらたったの1例で全体を決めつけるのでしょうが、データがない以上、過去との比較もできず、よって増えているかどうかもわからない。

たとえば歌舞伎町にある店で働くソープ嬢が百人町にある店の寮で自殺して、出勤しないために従業員が寮に行って自殺しているのを発見したといったことでもない限り、ソープ嬢が自殺したことを店が知ることは困難です。ただ連絡がとれなくなるだけ。

代々木のマンションに住む女子大生が歌舞伎町でソープ嬢をやっていて、自宅で自殺したところを大家が発見したところで、親族も友だちも「女子大生の自殺」としかわからない。

家に残されたパソコンや携帯に残された記録から、ソープランドでアルバイトしていたことがわかっても、親族はそんなことを公開しません。

店が電話をしたら親族が出て、「正子は自殺しました」と教えられることがあったとしても、店もこんなことは公表しない。

友だちでアルバイトのことを知っているのがいればわかりますけど、これも言わないので、せいぜいのところ、ウワサが流れておしまい。

※今まで不織布のマスクは白か水色でしたが、黒マスクが急に増えてきています。「白なら190円なのに490円は高いな」と思ってしまう時代になりました。

 

 

メディアが自殺増加に加担した可能性

 

vivanon_sentence「セックスワーカーと自殺の関係」なんて茫洋としたテーマについて語れることは何もないので、問い合わせについては直接話を聞く前に断りました。時間の無駄です。

テレビの場合、たいていは自分らで作ったチープなシナリオに沿ってコメントをしてくれる人を探すだけですから、根拠なく「増えてます」と断定してくれる人を探せばいい。いなかったらインタビューをうまいこと編集するだけです。私がコメントをしたところで、「はい、ガンガン自殺してます」と言っているかのように扱われるのがオチです。

そこまでするのは「羽鳥慎一モーニングショー」くらいですけど、ここに書いたような内容を説明しても、もう企画が進行していて変更できないこともあるでしょうし、仮に私の説明で納得して企画がボツになったとしても、「おかしな番組にならなくて済みました。ありがとうございました」と言われるだけです。番組が成立しないのではギャラも出ない。

こっちにはなんのメリットもないのに、説明するのも面倒臭いわ。

メディアは自殺を慎重に扱う必要があるとよく言われます。自殺の連鎖が起きる可能性があるためです。それでも私は事実である限りは報じていいし、報じなければならないとも思うのですが、手垢のついたチープなイメージだけを根拠にした番組作りはやめた方がいいと思うなあ。

 

 

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