自論に合致する事実のみを拾って他は無視する手法—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[3]-(松沢呉一)
「米議事堂乱入が民主主義のはずがあるか—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[2]」の続きです。
政府や国民の後退がプロテストを招いている例
プロテストが行なわれる背景を見た時に、
1)今まで続いてきた圧政、腐敗に対して初めてと言っていいようなプロテストが起きた(起きている)、あるいは今までもあったプロテストがより大きな規模になった(なっている)。→タイ、ベラルーシ、ナイジェリア、イスラエルなど
がある一方で、
2)これまでにも存在していた反民主的な政府の動きに加速がついて、それに対してプロテストせざるを得ない→ポーランド、ケニア、インド、インドネシアなど
といった国々があります。
ざっくり言えばマイナスのものをプラスに持って行こうとしているプロテストが第1グループ。政府や社会がマイナスに動いていることに対して食い止めようとしているのが第2グループ。
「コロナで民主主義が後退する」という予想が当たらなかった3つの理由の筆者であるジョシュア・キーティングさんが具体的に国名を出しているのは、日本版では米国、ベラルーシ、中国とその対照としての台湾だけですが(中国は思惑通りに行っていない権威主義国の例ですから他とは扱いが違う)、原文ではボリビアとタイも出しています。
ボリビアで起きているのは民主主義の勝利だけなのか?
ボリビアは、初の先住民の大統領であるエボ・モラレス(Juan Evo Morales Aima)が軍部の介入によって辞任を強いられて国外脱出し、昨年11月の選挙で、モラレスの後継者である同じ左派政党MAS(Movimiento al Socialismo–Instrumento Político por la Soberanía de los Pueblos)のルイス・アルセ(Luis Alberto Arce Catacora)が当選したことを筆者は民主主義の勝利としています。
国際的な監視の中ではあれ、公正な選挙が行なわれたことと、その選挙結果だけをとらえればそうなのですが、これも第2グループであって、軍部の介入までを含めた評価で言えば「辛うじて民主主義が維持された」とすべきです。
この介入は一昨年2019年のことなので、コロナとは関係がないのではありますが、ルイス・アルセの勝利もコロナとは関係がないでしょう。エボ・モラレスは国民の支持があって、10年以上大統領の座にあり、それが軍部の介入で辞任させられたことに対する反発です。
ルイス・アルセは左派ではあれ、先住民出身ではないのだし、大統領選ではダイナマイトで狙われています。爆発しながらも怪我人はなかったのが幸い。
国際的監視があっても、こういうことが起きる状態を無視して、「民主主義は強化されたのだ」と言い切ることができるのはどうかしてます。
これが先例となって、今後軍部の意向を踏まえた政治運営を強いられる可能性もあるでしょうし、もしそうならなかった場合は暗殺されかねない。そのことまでを考慮するなら、民主主義の危機にカウントすべき事例だと思います。
なお、ボリビアも「ポストコロナのブロテスト」で取り上げなければと思っていたのですが、麻薬カルテルと先住民族との関係など、けっこう面倒です。そのうちやります。
※2020年11月9日付「EL PAÍS」 ルイス・アルセ大統領就任式に合わせて、亡命先のアルゼンチンから帰国したエボ・モラレス
アフリカの国を挙げなかった理由
もっとも民主主義が危機的なのが、ニューズウィークの記事が無視したアフリカです。
中国の毒牙にやられ、バッタや洪水にやられ、民族浄化や内戦まで起きて民主主義は風前の灯火。もともと民主度が低いんだから、取り上げる必要がないってことかもしれないけれど、ジョシュア・キーティングさんがアフリカを取り上げなかったのは、取り上げると自論が成立しなくなるからではなかろうか。
(残り 1821文字/全文: 3517文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ